本当はね
主人公視点

千歳との仲が縮まったのは、合宿が終わり、一緒に帰るようになってからだ。毎日一緒に帰って、そのうちごはんも食べるようになって。千歳の側は心地よかった。なんの気も遣わなくてよかったから。それほど千歳は私のことをよく理解していたんだと思う。

だけど、千歳が熊本に帰って、まさか自分がこんなことになるなんて思ってなかった。毎日毎日千歳のこと考えていて、帰り道とか晩御飯のときとかいちいちさみしくなって、千歳で頭がいっぱいな自分が怖かったから、中々認められなかった。この感情が、「好き」っていう感情だってことを。

私は無意識にもとの自分に戻ろうとして、ご飯を食べるのをやめた。だってご飯食べるといちいち千歳のことを思い出すから。

そしてその結果この有様である。



「優奈ちゃん…ほんまに千歳に恋してるのねえ」
「にしても、不器用な奴やなあ、千歳にメールでも電話でもしてみたらええやんか」
「だって……別に用ないもん」
「なんやそれ」
「優奈ちゃん…うちめっちゃ嬉しい…!千歳と優奈ちゃん、はよくっつかへんかな〜おもっとったんやでえ」
「小春ちゃん…気早すぎ…」
「こいつ、最近お前と千歳の妄想がすごいねん」
「はあ〜〜ステキ…高身長の美男美女、だけど初々しい恋をしてるだなんて、ギャップ萌えやわあ〜〜」



小春ちゃん…一体どんな妄想してるんだ…手に負えそうになかったので小春ちゃんは一旦置いておいて、私は跡部くんにお礼を言いたかった。




「今跡部くんよんでくるわ」
「優奈ちゃん、安静にしとくんやでえ」
「ありがとう」




.


.



しばらくすると、病室のドアがガラリと開いた。そこに立っていたのは、まさしく跡部くんで。あれ、でもさっきの正装じゃなくなってる。着替えたのか



「跡部く…」
「寝てろ。まだ安静なんだろ」
「うん……今日はごめんね」
「俺様がいなかったら、今頃どうなってただろうな」
「……うう。」


跡部くんはゆっくりとベット脇のスツールに腰掛けた。


「……大阪に来て久々にお前と話した時、こいつ変わったなって思った」
「え……」
「性格が変わったとかそんなんじゃねえ。前に比べて女みたいになってやがった」
「……元々女ですけど」
「揚げ足取ってんじゃねーよバーカ。」
「スミマセン」
「……合宿でお前にキスした時、こいつは男を知らない以前に、恋すら知らないんだと思った」
「……」
「普通キスされたら、恥ずかしがるとか、嫌がるとか、なんか反応するだろ。お前は無反応だったからな。」
「……はい」
「でもこないだ久々に会って、頬赤くするお前を見て、こいつ、恋を知ったんだなと思った」
「……っ」
「でもその相手は、俺じゃねえだろ」
「……跡部くん、」



跡部くんはそのまま立ち上がり、扉を手にかけた。


「フン。無駄な時間を過ごした。俺は東京へ帰るぜ。」
「……」
「ま、退屈しのぎにはなったか」


そういうと、パタンと扉が閉まり、跡部くんの姿は見えなくなった。と思ったらまた扉が開いて、今度は忍足くんが現れた。



「すまんなあ優奈ちゃん、跡部のこと堪忍したってや」
「……ううん、私の方こそ…」
「跡部に優奈ちゃんの情報流したの、実は俺なんやで」
「え…?」


あれは確か謙也が私を跡部くんに売ったはず…



「跡部が中々優奈ちゃんと連絡取れへんて言うもんやから、俺が謙也を使って優奈ちゃんの夏休みの予定聞き出したんや」
「……どうして忍足くんが?」
「跡部の奴な、ほんまに優奈ちゃんのこと好きなんやで。あんな風にツンケンしとるけど。現に、前まで告白されたら来るもの拒まずやったのに、最近めっきり告白も受けなくなったんや。きっとそれほど優奈ちゃんのこと好きやったんやな」
「……そうなんだ…」
「そんな跡部見とったら、なんかしてやりたくなったんや。堪忍な、優奈ちゃん」
「……ありがとう忍足くん」
「ほな、俺はもう行くわ。我儘王子が自家用ジェットで帰る言うてるし。あ、担当医は俺の親父やから、なんでも言ってな」
「えっ、お父さん?」
「ここ俺んちの病院なんや。ほなまたな、優奈ちゃん」



そう言うと、忍足くんは病室から出て行った。…今度あらためて跡部くんにお礼を言いに行こう。


それにしても、なんかやだな。この気持ち。今だからこそ、跡部くんの気持ちが良く分かる。前に私に告白してきた人たちの気持ちもだ。




「…恋って、甘くて、ちょっと苦い…」



千歳、早く帰ってきて


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bkm
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