まさかの事態
主人公視点

次の日。久々のオフで今日は1日何もない…ではなくて、跡部くんとの約束が入っていていたんだった…。跡部くんからは昨日の夜メールが入っていて、朝の9時に迎えに来るらしい。少し早いんじゃないかとか、なんで私の家知ってるんだとか、いろいろ突っ込みどころはあるけど、とりあえず了解と返信しておいた。今は朝の7時半。ちょうどいい時間だった。起きて顔洗って、支度をしようと思ったが、まさかの事態が起きた。



「…体が…動かない…」



体が鉛のように重くて、とてもじゃないけど歩けそうもなかった。しかも少し熱があるのか体が熱い。汗もかいていた。どうしよう、支度しないと九時になってしまう。私は何とか這いつくばりながらリビングまで降りた。水を飲み、息をついたところで体力の限界がきて、床に倒れてしまった。


「……ゆか…きもち…」


フローリングがひやっこくてきもちい。ほんの少し目を閉じたつもりだったのだが、次に目を覚ました時には時計の針は8時50分を指していて。うわ、本当にどうしよう。携帯も二階に置いてきてしまったが、この調子だと動けそうもない。ゆっくりと這いつくばりながら、玄関へ向かったが、玄関までこんなに遠かったっけと思うくらい、体が言うことを聞かなかった。



ピンポーン



跡部くんだ。彼に助けを求めよう。しかし玄関ドアまであと少し手が届かない。もう力がほとんど入らなくて、大きな声も出ない。


ピンポーン



「……あと、べ…くん」


虫の息のような声で、玄関ドアを挟んだ相手までは通りそうもないボリュームだった。でも、今ここで倒れたらやばい。この家の鍵なんて誰も持ってないんだ。数日後死体で発見されるなんて嫌だし孤独死も嫌だ。


私は何とか玄関ドアのドアノブまで手を伸ばし、サムターンを回したところで一気に体の力が抜けて、顔面を玄関の床タイルにぶつけてしまった。ああ、これは…痣になるだろうなと思っていると、勢いよく玄関ドアが開いた。



「優奈?…おい、優奈!?」


跡部くん…なんちゅー格好してるんだ…。正装に薔薇の花束って。元気だったら真っ先に突っ込んでやるのに。やっぱり私も四天宝寺の生徒だな。と、働かない頭の中でぼんやりと思った。状況に似つかわしくない考えを巡らせていると、体がふわりと浮いた。



「なんで倒れてんだよお前は…って、すげえ熱じゃねえか」
「……うう」
「…チッ、本当にお前は行動が読めないぜ」


跡部くんはそう捨て台詞のように吐き捨てると、私をリビングのソファに寝かせ、誰かに携帯で電話をかけ始めた。



「忍足か?至急優奈の家に車を回せ。話はあとだ」



ピッと電話を切ると、跡部くんはつかつかと私の前へ来てどすんと床に座った。機嫌悪そう……



「風邪にしては体力の消費が激しいな。お前……腹でも出して寝てたのか?」
「……ちがう」
「…メシは食ったのか」
「……ない」
「昨日は」
「……」
「お前……いつからメシ食ってないんだ?」
「…………」


私が何も答えずにいると、跡部くんは盛大なため息を吐いて、私の頭をゆっくりと撫でた。

「まあいい。今は寝てろ。」


初めて見る跡部くんの表情だ。そんな優しそうな顔も、できるんだ…。それからゆっくりと気が抜けて、私は眠りについた。


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bkm
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