主人公視点
目が覚めると、真っ白な天井に真っ白なカーテン、そして薬品の匂い。
「…病院…?」
「あ、よかった、気が付きました?」
「…ここは…」
「よかったですね、倒れたのが病院の中で。軽い熱中症ですよ。点滴売打っておきましたから、もう大丈夫ですよ。はいこれ飲んで」
「…あ、どうも…」
手渡された飲み物を飲みながら頭をフル回転させた。私病院でたおれたんだっけ?
「付き添いの方、呼んできますね」
「付き添い?」
付き添いって…いったい誰?もしかして、白石たちが駆けつけてくれたのかな?ガラリと開いたドアから姿を現したのは、軽いウェーブのかかった髪の、綺麗な男の子だった。誰…?
「やあ、気がついたみたいだね」
「…あの…」
「君が倒れたのは、この大学病院とつながっている公園内だ。君が倒れたところにちょうど俺が通りかかってね。気分はどうだい?」
「ちょっとクラクラするけど…大丈夫です」
「そう。よかった」
この通りすがりの人に助けられたのか…よかった。放置されてたら確実に干からびていただろう。
「それにしても、四天宝寺のマネージャーは人を覚えるのが苦手っていう情報は本当みたいだね」
「え?…私のこと知ってるの?」
「ふふ、僕のこと、見覚えはない?去年あっているんだけどなあ」
「………ごめんなさい、ちょっと思い出せない…かな」
「いいよ。俺は幸村精市。立海テニス部の部長をしてるんだ」
「…あ!」
そういえば、こないだの合宿で真田君が言ってた…闘病中の部長さん!
「…え、あの、体の方は…?」
「実は手術が成功してね。もう部活にも復帰しているんだ。今日はこの病院で検診を受けに来て、ちょうど君が倒れたところに居合わせたんだ」
「そうだったんだ…よかった…」
じゃあ立海はベストメンバーで全国大会に挑むってことか。順調に勝ち進めばあたる学校だ。油断はできなさそうだ。
「ところで君は、どうしてこんなところにいたんだい?」
「…あ!遠山君のこと忘れてた!」
私は急いで携帯を取り出た。
「あ、ここ電話は…」
「ここは使えるよ」
白石に、発信。
「もしもし」
『桜井か!今どこにおるん?』
「それが、遠山君探してるうちに熱中症で倒れたみたいで…今渋谷の病院にいる」
『は!?ほんまかそれ!大丈夫かいな』
「うん。立海の幸村君がたまたま助けてくれて…」
『幸村君が?そらまたえらい偶然やな』
「それより、遠山君は?」
『金ちゃんならここにおるで!』
白石の話によると、ハチ公前で私を待っていた遠山君は、迷子だと思われて警察に保護された。そしてその警察に「アリーナテニスコートにいきたい」と言ったところ、パトカーで連れて行ってもらったそうだ。そしてそこで他校の試合観戦をしていた白石たちと合流したらしい。
「…私の努力はいったい…」
『桜井、ほんまに体調大丈夫か?迎えにいこか?』
「ううん…大丈夫。わたしもそっちにいくから」
電話を切り、ベッドから立ち上がると、体に力が入らない。あれ、なんだこれ
「まだ本調子は出ないと思うよ。はい、手かして」
「ご、ごめんなさい」
幸村君の手を取り、肩を貸してもらい何とか立つ。あれ…今幸村君と密着してるのに、ドキドキしない…
「ちょうど俺も今から会場へ向かうところだったんだ。一緒に乗ってくかい?」
「タクシー?私お金もってないよ」
「かまわないよ。じゃ、いこうか」
看護師さんたちに挨拶をして、幸村君とタクシーに乗り込んだ。幸村君は色々とスマートである。
「…それにしても、驚いたよ」
「何が?」
「桜井さん。去年とまったく雰囲気が違うから。別人かと思った」
「あ…最近よく言われる」
「前よりもしゃべるようになったし、表情も豊かになった。いったい何があったの?」
「さあ…私にもよくわからなくて」
「真田からきいたよ。四天宝寺は皆とても仲が良かったって。きっと君のことを理解してくれる人が増えたんだね」
「…」
そういえば、いつからだろうか。私がみんなと打ち解け始めたのは。合宿…ううん、千歳が入った後くらいから?
そんなことを考えていると、あっというまに会場につき、そこには皆が私を出迎えに来てくれていた。
「優奈ー!大丈夫と!?」
「優奈ちゃーん!心配したでええ」
「ごめん」
「幸村君、ほんまありがとな。助かったわ」
「ふふ。いいよ。じゃあ俺も行くから」
「幸村君、ほんとにありがとう」
幸村君が行ってしまい、私は一人で立っていたが、やはり体に力が入らなく、ふらついてしまった
「…っと、優奈、ふらついてるばい」
「あ、ごめん」
「千歳、優奈のことおぶってホテルまで運んでやってや」
「え」
「わかったばい。ん、」
「え、ちょっと」
「はよ乗らんね。ほら」
仕方なく私は千歳におぶられ、ホテルへ戻ることになった。なんで千歳なんだと思ったが、確かに私をおぶれるのは千歳くらいだろう
「…………」
「優奈は結構無茶ばすっとね」
「…………」
「前も俺んこつかばって水かぶっとったたいね。あん時も心配したばい」
「…ごめん」
「謝ることじゃなかよ。むしろ俺がお礼言わんといけんたい」
千歳におぶられていたら、なんだか背中が温かくて、眠くなってきた。今千歳と密着してるけど、さっきのようなバクバクはない。でも、心臓がいつもより早く動いている。
「…千歳」
「ん?」
「眠い」
「寝てもよかよ」
「…今日はごめんね」
千歳が「優奈?」と声をかけてきたような気がしたが、返事を返す前に眠ってしまった。