東京鬼ごっこ
主人公視点

新幹線に乗ること二時間半。やっと東京駅に着き、そこから電車を乗り継いで今回宿泊するホテルへとたどり着いた。


「ほな、部屋鍵渡すでー。」

白石が部屋鍵をみんなに渡していく。皆4人一部屋のところ、私だけ一人一部屋にしてもらえた。ありがたや。


「優奈…」
「1メートル」
「…………」


新幹線を降りてから、千歳には半径1メートル以内に入らないでもらっている。こんな威圧感のあるやつがそばにいたらきっと私の心臓はもたないだろう。



「さっきから優奈ちゃんと千歳は何しとるん?」
「新しい漫才か?」
「違う」
「優奈が近づくな言うてくるたい。ひどか〜」
「皆さっさと部屋行きや!ほかの客の邪魔やで」



白石は立派な部長である。荷物を持ってエレベーターに乗り込もうとした瞬間、私の携帯が鳴った。



「もしもし…遠山君?」
『もしもーーーし、優奈か?』
「遠山君、今どこ?もう東京駅に着いた頃だよね」
『聞いてえなー!わいな、今富士山の近くにおるねん』
「…は?」
『つい間違えてしもて、また静岡で降りてもうたんや!』
「…遠山君には学習ってものがないのかな」
『でも今度は大丈夫や!今人に道聞きながら東京向かっとるし、心配いらんでー!』



ブチッ




「ちょっと、遠山君?」
「桜井、金ちゃんがどうかしたんか?」
「また静岡で降りちゃったって…」
「は!?なにしてんねんあのゴンタクレは」



まあ、今回は人に道聞いてるみたいだし。大丈夫…だよね?私たちは一度部屋へ荷物を置き、一息入れることにした。この後、地獄のような試練が私に迫っていただなんて考えもしなかった。















「桜井、さっきから何してんねん」
「………別に」
「優奈〜まだ怒っとると?」
「別に怒ってないってば」
「なんやようわからんけど、俺を盾にするなっちゅー話や」




ラウンジで皆で一休みしていると、千歳が1メートル以内に入ってこようとしたので隣にいた謙也を盾に攻防していた。



「謙也は1メートル以内に入ってもよかと?」
「…謙也は威圧感ないから」
「なんねそれ!ひどか!」
「なあ何の話しとるん?」


これ以上謙也を盾にするのもよくないと思い私は小春ちゃんたちのほうへさっと逃げた。千歳には申し訳ないけど、もう少し耐性がつくまであんまり近くに寄らないでもらおう。



ピピピ



「優奈ちゃん携帯なっとるで」
「あ、たぶん遠山君からだ。もしもし」
『もしもーーし!優奈!東京ついたで!』
「東京って、東京駅のことだよね?」
『んーーーたぶん』
「じゃあ、そこからまず山手線に乗って…」




まてよ…遠山くんが東京の電車を間違いなく乗れるのだろうか?私が迎えに行ったほうが早くないか?



「遠山くん、私迎えに行くから、そこにいて」
『えっ優奈来てくれるんかー?』
「うん、東京駅着いたらまた連絡するね」


ピッ


「…てわけだから、私遠山君迎えに行ってくる」
「優奈、一人で大丈夫と?」
「俺らも一緒にいこか?」
「せっかくだから皆試合観戦してきなよ。私は一人で大丈夫」



その後部屋へ財布を取りに行き、私は東京駅へ向かった。遠山くんとちゃんと会えるよね。なんだか不安だ。そして、その不安は見事的中したのであった。




「…え?」
『せやからな、今でっかい提灯の前におるねん』
「遠山君…待ってろって言ったよね」
『堪忍や〜!ええにおいがして思わずそれにひきよせられてん』



でっかい提灯…雷門?浅草!?
なにをしてるんだコイツは!!
電車代だってばかにならないんだぞ。



「遠山君、あのね、」
『優奈ー!ワイ今からそっち戻るさかい、待っとってやー!』
「えっ?ちょっと、」


電話はすでにきれていた。待っといてって、本当に遠山君は東京駅へ戻ってこれるのだろうか。またもや不安を抱きながら東京駅内でまつこと30分。遠山君、来ないな…大丈夫だろうか…



「あっつ…」


駅の中は結構暑い。ましてや今日は真夏日で軽く30度を超えている。近くの喫茶店にでも入りたいけどいつ遠山君が来るかわからないし…



「…電話してみよう」



プルルルル




「遠山君?いまどこ?」
『優奈〜〜、今な、人波に押されてるとこやねん』
「…どこにいるの」
『うーんとな、漢字が読めへん…なんとか谷って駅におるで!人がぎょーさんおって、犬の銅像があるところや!』


渋谷だ。なんでそんなところにいるんだ…!東京駅すっとばしてるじゃないか!



「遠山君、私の言うこと聞いて。今からそっちへ向かうから、その犬の銅像の前から離れないで。」
『わかったで!』



信用ならない返事だ。とにかく渋谷へいこう。喉乾いたな、お茶か何か買いたいけど、電車代足りるか微妙だし…我慢だ。














渋谷


「…いない…」



犬の銅像、つまりハチ公前に到着した私は愕然とした。遠山君がどこを見渡してもいないのだ。待つこともできないのか遠山君は…


渋谷といえば若者の街。まして今は夏休みである。街にはおしゃれしたひとがたくさん歩いていて、ジャージ姿で(しかもまっ黄色)息切れしている私は悪目立ちしている。…そうだ!


「あの、すいません」
「はい?」
「さっきまで、ここら辺に私と同じジャージの男の子いませんでしたか?」
「…あー、髪の毛赤い子?」
「…!それです」
「もしかして君、お姉さん?あの子ならさっき迷子として警察に保護されてったよ」
「…え…」



何回保護されたら気が済むんだ遠山君は!すぐに遠山君へ電話をかけたが、電話越しに聞こえてきたのは「現在電源が入っておりません」。
電池切れ…最悪だ。



「ここから近い交番…」


交番を当たっていけば遠山君に会える…はず。一縷の望みにかけて私は交番を巡った。ああ、暑い、今にも倒れそうだ。










「赤い髪の迷子の子?」
「はい」
「うーん、この交番には来ていないよ」



これで4件目。遠山君はどこにも見当たらない。もう私も体力が限界で、近くの公園のようなところで休憩することにした。




「はー…あつい…」



なんでこんなことになったのだろうか。遠山君、あったらこってり叱ってやる。ぼーっと空を見上げていると、なんだか視界がぐるぐる回ってきた。あれ…ちょっとこれはまずいんじゃないか…そういえば、さっきから何も飲んでなかった…



あー、倒れる、と思いながら、私は意識を飛ばしてしまった。


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bkm
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