耐性
主人公視点

一日の休養をとり、ついに全国大会出場のため東京へ赴く日がやってきた。今回はバスではなく新幹線で向かうことになり、大阪駅でみんなを待つ。相変わらず千歳と遠山君は来るのが遅い。こんなことなら千歳の家に寄ってから来るんだった…。そう後悔しても遅いので、しぶしぶ2人を待つことにした。



「白石、遠山君は?」
「それが連絡つかへんねん。この分だと寝坊やな」
「…はあ、またか…」
「まああいにく今日は試合の予定はないんやし、大丈夫や」



あと五分、というところでやっと千歳がやってきた。



「優奈、おはようさん」
「遅いんだけど」
「う、すまんばい…」



ぎろっとにらむと千歳はすくみ上った。遠山君はもう間に合いそうにないということだったので、後から私たちを追いかけてくる形になった。東京方面のホームへ上り、新幹線へのりこむ。隣の千歳はまだ私におびえていたようで「ゴメン」と間の抜けた声で呟いていた。



…ていうか…



なんで当たり前のように千歳の横に座ってるんだ私は…。いつもは真っ先に小春ちゃんの隣を確保しようとしていたのに。うーんと考えていると新幹線が動き出し、なんだか眠くなってきた。




「…………」
「優奈、ねむたそーばいね」
「…うん。…眠い…」
「肩使ってもよかよ」


千歳の肩は調度いい高さで、いい枕だなと思いながらおとなしく肩を借りることにした。



「昨日寝るの遅かったと?」
「…元々朝がそんなに強くない…」
「そういやこないだの合宿も眠たそうにしとったばいね」
「……うん……」



うつらうつらしながら、会場に着いたらまず何しようかとか、対戦表確認しなくちゃとか、色々と考えていた。そういえば宿泊場所ってどこだっけ、新幹線降りるまでに行き方調べなくちゃ


「…千歳、今日どこに泊まるんだっ…け…」



そう千歳に訪ねようと少しだけ顔をあげたその時。目の前に、千歳の顔が。




距離が近い



「なんね、優奈」
「………やっぱり何でもない」




私はゆっくり顔を戻し、ずるずると千歳から離れた。び、びっくりした…!人とこんなに顔近づいたの、初めてだ。不思議なことに心臓がバクバクいっている。落ち着け、深呼吸、深呼吸…。



「優奈?体調でも悪かと?」
「いや、何でもないから、こっち向かないで…」



千歳が心配して顔をのぞき込んでくる。やめてくれ、私には人と接近することに耐性がないのだ。心臓が痛い。胸をさすっていると、何やら視線を感じる。顔を上げると前の席の座席からこちらをのぞき込む小春ちゃんとユウジがいた。




「二人とも、何してるの」
「あらぁ、ウチらのことは気にせんでええのよ」
「続けて続けて」
「は?」


相変わらず変な2人である。なんだか目がさえてしまった。



「優奈水飲む?」
「あ…うん。」


千歳から差し出された水を素直に受け取り一口飲んだ。そういえば、小春ちゃんとユウジはいつも密接してるけど、緊張したりしないのかな。




「桜井、ちょっとええ?」
「あ、うん」



後ろの座席から白石に呼ばれたので、千歳をまたいで後ろの席へ移動した。千歳の足邪魔だな。背も高ければ足も長い。



「これ今日の宿泊場所やねんけど…」
「あ、行き方しらべなくちゃって思ってた」
「せやねん。まず東京駅で降りて…」



白石が持っている案内図を二人で覗き込みながら、経路確認をしていく。チラリと視線を上げると、白石の顔。…あれ…。ドキドキしない。さっきはあんなに心臓バクバクしたのに。もしかしてもう耐性がついたのだろうか?順応早すぎだろ自分


じーー…



「…なあ桜井、話聞いとる?」
「え?」
「てか、人の顔見すぎやろ」
「あ。ゴメン」



経路も決まり、席へ戻ると千歳がこっくりこっくりしていた。眠いのだろうか。そうっと席へ戻り、千歳にもらった水を飲みながらこっくりする千歳を眺めていた。



耐性、ついたのかな?



水を置き、ずるずると千歳のそばによって、顔を近づける。あ、さっきよりもドキドキしない。…にしても千歳、まつ毛長いな…。



パチっ



「え?」
「え」






「ぉわああああ!」




ドンッ




いきなり目を覚ました千歳に驚いて、思わず千歳をつき飛ばしてしまった。


「優奈…痛かー…」
「ご、ごめん」
「なんやねん今の声」
「桜井、ほかの乗客に迷惑かかるやろ、静かにしてや」
「す、すみません」




白石に怒られてしまった。ああ、びっくりした、まだ心臓が収まらない。全然耐性ついてないじゃないか…



「なあ優奈ちゃん、今何があったん?」
「桜井のあんな声聞いたことないで」
「えっべ、別に。何も。」



私もあんな声が出るだなんて驚きだ。


「優奈、さっきなんばしとったと?」
「…別に」
「俺の顔なんかついとった?」
「だから何にもないってば」


お願いだからあんまり近づかないでくれ。なんだか本当に心臓が痛くなってきた。




「千歳」
「ん?」
「今日から私の半径1メートル以内に入ってこないで」
「はっ?なして?」
「なんででも」
「今すでに1メートル以内に入っとるばい」
「〜〜〜っ、新幹線降りたら!」




千歳には悪いけどしばらく近づかないでもらおう。きっと千歳は人よりも一回り大きいから、威圧感があるんだ。それでこんなにドキドキするのだろう。耐性をつけるのには時間がかかりそうである。






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