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「改めて、この春から四天宝寺に転入してきた千歳千里や。前の学校でもテニスしとったみたいやからだいたいみんな知っとるやろ」
渡邊先生の話に、白石やら謙也やら部員たちは知ってると頷き合っている。
私はこんなやつしらないぞ。
ああ、早くミーティング終わらないかな。ちらちらと時計を気にしていると、千歳と目が合ってしまった
「千歳千里たい。よろしく」
…とにかく彼はでかい。壁に掛けられた時計への視線に入るくらいでかいのだ。
私が見上げる相手なんて石田君くらいだったのに。なんだか負けた気分がする…。
「ほな、桜井は千歳にコートの案内してやってな。ほかの連中は今日は解散!明日から練習始まるし覚悟しときや」
コート案内…?コートなんて目と鼻の先なのに!案内なんていらないでしょ。
渡邊先生のゆるい話が終わると、
レギュラーたちはぞろぞろと千歳の周りに群がった。
話を聞くと千歳は中々名の知れた選手だったみたいで、みんな千歳に興味津々だった。
テレビが始まってしまう。時計を気にしていたらまた千歳と目が合い、ニッと笑いかけてくるヤツ。
…なんだその笑顔は…
「千歳君、男らしくてカッコいいわ〜」
「……なんかムカつく」
「え?優奈ちゃん千歳のことムカつくん?」
「千歳お前何したんや?俺より嫌がられてるやんか」
忍足が皮肉を言っていたのでぎろっと睨むと小動物のようにすくみあがっていた。
私はごそごそとカバンから学校の見取り図を取り出し、千歳に差し出した。
「なんね、これ」
「学校の見取り図。テニスコート、この赤いところだから、よろしく」
しんと静まりかえったレギュラーたちの真ん中を通り、私はテレビのために家へと帰った。