キスされた彼女
主人公視点

バス良し、荷物良し。

「千歳、フラフラしないで早くバスに乗って」
「ほいほい」
「財前君、携帯いじってないで早くバスに乗って」
「…了解っす」
「小春ちゃん、一氏、ベタベタしてないで早くバス乗って」
「堪忍な優奈ちゃん!他校のイケメンたちにアドレス聞きたいねんけど、一氏が邪魔すんねん!」
「小春!浮気やでえ!」


素早くバスヘ乗り込んでくれたのは小石川君と石田君と謙也だけで、他の連中は個人行動がとにかく目立つ。私は引率の先生じゃないぞ。白石は手塚君や跡部君、真田君となにやら談笑している。私は手元の上着をぎゅっと握りしめた


「(今しかない…。これ渡さなくちゃ…)」


白石たちは話もひと段落したらしく、私は跡部君の方へ駆け寄った。



「跡部く…!」



ドテッ


…なんていうタイミングだろう。そしてなんて間抜けなんだろう。跡部君の元へたどり着くあと一歩のところでコケるだなんて!しかも昨日怪我したところをまた地面にぶつけてしまった。痛い…


「ちょ…なにしてんねん桜井、大丈夫か?」
「……いたい〜…」
「…………プっ」


めちゃくちゃ痛がっている私を見て、目の前にいた跡部君が吹きだした。うう、恥ずかしい!もう半分ヤケになって、勢いよく立つと、そのまま上着を跡部君へ突っ返した。


「昨日はありがとう!これも、ありがとう!」



最悪だ。かっこ悪すぎて下げた頭を上げられなかった。なんだか恥ずかしい気持ちやら悔しい気持ちやら、混沌とした気持ちがあふれてきて涙が出そうになった。
隣で白石も見かねたのか、「ありがとな跡部」と私と一緒になって頭を下げてくれた。今、人生で一番情けない姿を人前にさらしているような気がする。



「…バーカ、いつまで頭下げてんだ」
「…っ」
「顔上げろ」
「…あのっ」




ちゅっ






「…!」
「今回はこれでチャラだ。じゃあな」




そういい残し、さっそうと去っていく跡部君。
一瞬、何が起こったのか分からなくて、周りの音も全部聞こえなくなった。5秒くらいしたところで、やっと自分に何が起こったのか理解し始め、周りのみんなの悲鳴が聞こえてきた、



私、今キスされた



「きゃあああ優奈ちゃんっ、今チュウされたやろ!?」
「わあああ優奈!!大丈夫と!?」
「…い、いひゃい、千歳…」
「優奈センパ―――イ!なんすか今の!?」


千歳がごしごしとジャージの袖でこすりまくった私の口を押えていると、向こうからものすごい形相で切原君が飛んできた。周りのみんなは仰天状態だったが、一番驚きを隠せないのは当事者である私だ。そして小春ちゃんと一氏、なんでそんなにうれしそうなんですか




「跡部…お前ってやつは…!」
「何してんだよ跡部!人前でき、ききききキスするなんて、激ダサだぜ…!」
「うるせーな、外国じゃ当たり前だぜ?」
「ここは日本ですよ跡部さん!!」


跡部君は氷帝のみんなからブーイングを浴びせられていた。そしたら、またパチっと目が合った。にやりと不敵な笑みを残した跡部君。なんだかこの先ひと波乱ありそうだ。





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