跡部視点
昨日風呂の前であいつに会ったのは本当に運がよかった。俺の思い通りに動かない桜井にどうもイライラして、あいつが傷つくようなことばかり言ってしまっていたから何かきっかけがあればと思っていたからだ。
しかしあいつが俺に怒鳴るだなんて思ってもいなかった。明らかにあいつは前よりも表情豊かになっている。おそらく周りの環境が変わったのだろう。四天宝寺のやつら、前よりも仲良くなっていたからな。
「おい跡部、お前優奈ちゃんと何があったんや」
「関係ねえだろ」
「あるわ。昨日の夜から機嫌良くなったかと思えば朝からソワソワソワソワ」
「…うるせーな」
実は心のどこかで、あいつから俺に話しかけてくるんじゃないかと期待していた。自分がこんなにも女々しいことに驚いていたところだ。
横眼で働くあいつの姿を追うと、なんだか張り付いた笑顔でタオルを配っている。なんだ?新しい芸か?
「優奈ちゃんも朝から様子おかしいなあ…跡部お前まさか…」
「バーカ。何もしてねえよ」
「ほんまか?勢い余って襲ったりしてへんか?」
「だまってろエロ眼鏡」
いちいち探りを入れてくる忍足を交わしながら、俺はとにかく何も気にしていないふりをした。少しでも自分のプライドを守るためだ。なさけねえな…。
それから練習が終わり、四天宝寺は荷物を取りに部屋へ戻っていった。それまであいつが俺に話しかけてくることはなかった。