自信が付いた彼女
主人公視点

残り時間はあと3時間。午後になったら私たち四天宝寺は大阪へ帰ってしまう。それまでになんとしてでも跡部君にお礼を言って、借りた上着も返さなくてはいけない。人生で最も難易度の高いミッションである。


「お疲れ様です」


自然に、ニコっと。笑ったつもりだったのだけど…。ドリンクを渡した相手、丸井君はなんだかドン引きしている。なぜですか


「おい桜井、お前こえーよ。なんかたくらんでるのかよい」
「おいブン太、失礼だろっ」
「別に企んでないです…」


ジャッカル君の言葉の方がなんとなく胸に突き刺さった。


「…桜井」
「あ…柳君」
「何か悩みがあるようだが、無理して笑うと逆効果だぞ」
「えっ」
「まだ無表情の方がマシだ。…俺もタオルをもらってもいいか?」
「あ、はい、どうぞ…」



柳君と青学の乾君は情報通である。もしかして私と跡部君のこと全部知ってるのかも…。怖い




ドンっ


「わっ」

「おっと、って、桜井やん。なにしてんねん」
「白石…」




よそ見してたら白石にぶつかってタオルをぶちまけてしまった。あああ…最後の最後で何してるんだろう。また跡部君にこんな姿見られたら…と思いきょろきょろと辺りを見回したが彼の姿はない。良かった…



「桜井…跡部君となんかあったんか?」
「え…」
「今朝から様子おかしいで」
「……………」
「まあもう午後にはここともおさらばやけど、気になるなら俺から変なこと言うなってビシっといっとくで?」
「あ、違うの…そうじゃなくて」
「ん?」
「…お礼を言いたくて…」



「お礼?」とハトが豆鉄砲くらったような顔をする白石。まあ確かに昨日まであんなにいがみあってたからな…


「面と向かって、誰かにお礼を言ったことなんて今までに一度もないから…少しでも笑顔で言えたらなって思ったんだけど…」
「あー…それで朝から変な顔しとったんか」
「変な顔…」
「あ、すまん。でもな、ほんまに無理して笑うことないと思うで?」
「………」
「桜井は気づいてないかもしれへんけど、自分前ほど無表情じゃなくなってきとるんやで」
「え?」



白石はそばにいた謙也を呼び止めると「最近の桜井、表情豊かになってるよなあ」と問いかけた。




「ああ、それ俺も思ったで。ほんのわずかやけどな」
「一言余計や、アホ」
「あっすまん」




バシっと謙也の頭をはたく白石。…そうなんだ、気が付かなかった。私、本当に少しずつ、変わってきてるんだ…




「…二人とも、ありがとう。私いくね」




二人のおかげで少し自信がついてきた。とにかく今は仕事して、帰り際にしっかりお礼を言おう。





「…えらい進歩やなー」
「桜井、ちゃんと笑えるやん」





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bkm
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