主人公視点
「あれ?優奈先輩?」
「あっ、お疲れ様でーす!」
「桜乃ちゃん、朋香ちゃん。お疲れ様」
「先輩もお風呂ですか?」
「うん、今日は疲れたから早めに入ろうと思って…」
女湯の前で会ったのは青学マネージャーの二人。しまった、被ったか……。お風呂独り占めできるかと思ったんだけどな。なんていう本心は出さずに、私は二人とともに脱衣室へと向かっていった。
カゴの中にバスタオルを入れて服を脱いでいると、何やら視線を感じる…
「優奈先輩って、本当にスタイルイイですよね〜……」
「へ?」
「朋ちゃん、見過ぎだよ!」
「先輩って身長いくつあるんですかー?」
「え……あ、170…かな?」
「へー、背は高いし細いし、モデル体型ですよね!羨ましい〜!」
私はあなたたちが羨ましいよ……。女らしさのかけらもないんだから。
相変わらず朋香ちゃんの視線を感じながら、私はささっと身体と頭を洗い終え、湯船に浸かった。
「(ここのお風呂、お湯が濁ってて本格的なんだよね…)」
しばらく湯船に浸かっていると、桜乃ちゃんたちも湯船に浸かり始めた。他愛のない話をしていると、朋香ちゃんが熱いと言い湯船から上がり、桜乃ちゃんも一緒に上がっていった。
私はもう少し温まろうかな…あったかい…なんだか…眠く…
・
・
「…ガボッ」
…し、しまった。寝てた…。うう、鼻にお湯入ったよ、何してるんだ自分…。
いったいどれくらい寝ていたのだろう、身体がものすごく赤い。湯船から上がると、ぐらっと目が周り、不覚にも転んでしまった。わああ、本当に何してるんだ自分!膝小僧すりむいた、血が出ている、私は小学生か…
「うー…、やばい、とりあえず上がらなきゃ」
這いつくばりながら脱衣室まで行き、着替えを済ませ外へ出た。膝小僧から血がなかなか止まらないのでジャージを膝上まで上げながら、私は近くのベンチへと倒れた。
「う〜〜、あつい、」
しかも眠い。このままここで寝れそうだけど、寝たらダメだ、部屋へ戻らなくては。とぼんやり考えていると、スッと私のそばに影ができる。自然とそちらへと目をやると、なんとまあ不機嫌そうな跡部くんが立っていた。ああ、今日はどこまでも付いてないんだな
「何してんだてめえは」
「……ほっといてください」
「…顔が赤いな、のぼせたのか?」
「……」
「ほんとに仕方ねえな」
ああ、今回ばかりは反論できない。悔しいので無視を決め込んでいると、頬にひやっとしたものが触れた。
「え……」
「のめ。」
跡部くんから手渡されたものはペットボトルのポカリスエット。え、これ、くれるの…?
「はやくのめ、死ぬぞ」
「は、はい」
跡部くんに言われるがままペットボトルに口をつける。跡部くん…なんか優しい…?
「立てるか?」
「え、あ、はい。…いたっ」
「…なんだその傷」
「さっき風呂場でコケて…」
「とことんアホだな」
くう、やっぱり性格悪い。けど、なぜか今は優しくもある。不気味だ。なんか企んでるのか?
「これを着ておけ」
「あ…上着…」
「湯冷めするだろ。早く着ろ」
跡部くんは羽織っていた上着を私に貸してくれた上に、どうやらおんぶして私を部屋まで送ってくれるらしい。本当にどういう風の吹き回しなんだろうか。
「……」
「……」
「あの…」
「…なんだ」
「……なんでここまでしてくれるんですか」
「うるせえ、そういう気分だったんだ」
「あ、そうですか……」
「……」
「……」
「……悪かった」
「え……」
「今日は、悪かった」
謝った……?
思いがけない言葉にわたしは返事が出来なかった。とにかく何か話さなくちゃと口を開いた瞬間、「ついたぞ」という跡部くん。あ…マネージャー室着いた。
「その傷、しっかり処置しておけよ」
「あ……」
跡部くんはマネージャー室の前にわたしを下ろすと、スタスタと行ってしまった。しまった、お礼を言いそびれた。借りができてしまったようで、明日からどう接しようと頭の中がぐるぐるした。