財前視点
優奈先輩は見かけによらず結構アホなとこがある。合宿にお菓子持ち込もうとしてるし、財布忘れよるし、挙句の果てに金貸せ言いよるし。あの時貸した金はまだ返ってきていない。はよ返せと催促しようかと思ったが、優奈先輩はこの合宿中妙に元気がなかった。いや、元から表情ないしあんまり喋らんから、元気さの欠片もないんやけど…。なんというか、負のオーラが出てるというか…。でもまさか、あの優奈先輩が泣くだなんて思いもせんかったわ
「優奈ちゃん泣かないでぇ〜」
「せ、せやで!な、泣くな桜井!」
「なんかあったんかいな」
一氏先輩の言葉にぴくっと肩を揺らす優奈先輩。なんていうか、この人泣くときも無表情なんやな。目からただ水が出ているような、泣き方まで淡々としていた。
「…別に何も…」
「うそつけ。んなわけあるか」
「優奈、いわなきゃわからんばい」
部長や千歳先輩の真剣な表情に屈したのか、優奈先輩はポツリポツリと話し始めた
「…跡部君が…」
「「「…跡部…??」」」
「…私のこと…足手まといって…」
「「「……………」」」
「ブッ」
「コラ謙也!何わろてんねん」
バシッと部長に叩かれる謙也さん。そりゃ、笑いたくもなるだろう。普段何言われてもうんともすんとも言わへん優奈先輩が、たかだかそんなこと言われたくらいで泣くだなんて、
「大丈夫ばい」
「…千歳…」
「優奈は足手まといなんかじゃなか」
「せやで優奈ちゃん!なんにも気にすることないで」
「俺らがついとるやんか。大丈夫や」
元気だしや、と部長が優奈先輩の背中をトンと叩くと、優奈先輩は少し驚いたような顔をして俺らを眺めた。この人こんな顔もするんやな
「…ありがとう…」
最後に一粒、ポロっと涙を流すと、それから優奈先輩はすっかり泣き止んでいつも通りに戻っていった。優奈先輩は少しずつだけど、変わってきてる気がする。まあええことやけど、優奈先輩の色んな表情、俺しか知らないと思ってたから、ちょっとだけ残念な気がしなくもなかった。