泣いた彼女
主人公視点

やっと四天宝寺の部屋へつき、扉を開けるとすでにトランプ大会が始まっていた。みんな輪になって定番のババ抜きをしていたらしい。


「桜井遅いで!もう始めてるで」


謙也に早く来いと手招きされて靴を脱ぎ部屋へ上がると、千歳と謙也の横に微妙な隙間があったので体育座りでそこに入り込んだ。
小さめの女の子だったらかわいらしいはずなんだけど、あいにく170もの巨人女が体育座りしてもあまりかわいくない。


私が加わったことで一からババ抜きが始まった。
…トランプなんて何年振りだろう…



数分後



「…あかん…どっちや…」
「………………」
「…わからへん!こっちか!」



バッと私の手元にあったトランプを取る謙也。彼が引いたのはババだ。


「…あかん…またババひいてもうた…」
「優奈ちゃんめっちゃ強いわ〜」
「小春よりも強やんか!」
「つーか謙也さん、ババ持ってるのばらしてどないするんすか」
「あ!せやった…やってもた」


そういえば昔から私はトランプが強い。特にババ抜き。



「桜井お前ババ抜きの特訓してきたんやろ!」
「してないけど…」
「(優奈先輩表情無いから強いねんな)」


なんか久々に楽しい。でももう少しで消灯時間だ。明日ちゃんと起きれるかな…。今まで楽しくて忘れてたけど、跡部君の件を思い出してしまった。途端一気に沈む気分。いやだな…明日も何か言われるのだろうか。
また私は「足手まとい」になるのだろうか

また私は自分の無能さを感じるのだろうか…




ぽと




「え…」
「桜井…」
「ちょ…優奈ちゃんどないしたん!?」



気が付くと視界がぼんやりしていて、なんとなくみんなが焦っている様子が目に映った。あれ、私…



泣いてる…?



「優奈!どげんしよったと?」
「…私…泣くの10年ぶりくらいかも…」
「ほ〜そら見事やな。…じゃなくて!!」


一氏の見事なノリ突込みが炸裂する。あ…どうしよう、みんな困ってる…。謙也なんてあたふたしてどうしようもなくなっている。



「ご、ごめん。なんでもないから」


慌てて上着の袖でごしごし涙を拭こうとすると、千歳に腕をつかまれた。



「なんでもなくなかよ」
「桜井、今日ずっと元気なかったやん。なにがあったんや」



白石の真剣なまなざしにしばらく目がそらせなかったけど、視界の隅へ目線をそらしてしまった。ふと先ほどの桜乃ちゃんの姿が頭によぎった。あんな風に、素直に感情の表現ができればいいのに…私には頼り方すら分からない…。


「…ほんとに…なんにもないから…」
「優奈先輩が泣くなんて、ただごとじゃないですよ」
「財前それじゃ桜井に失礼やろッ」

こんな時にもつっこみを欠かさない一氏。すごいな…。すると白石の手が伸びてきて、ぐりっと顔を向かされた


「…ちょ…っ」
「桜井。お前が感情の表現がヘタクソやってことは、もうだいたい皆わかっとる」
「え…」
「…まあ、俺がそれを知ったのは最近や。それまでは桜井のこと無表情で不愛想で、変わった奴やとしか思ってへんかった。ほんまにごめんな」



「桜井、お前も1年からずっと一緒に頑張ってきてくれた仲間や。なんかあったら言ってや。簡単な言葉でええから。」


うれしかったらうれしいって

悲しかったら悲しいって

いやならいやだって


そんな簡単な言葉で、いいのなら





「…かなしい…かなしいよ〜…」





最後に泣いたのは、5歳の時。幼稚園の校庭で転んで泣いた。もうあれから10年も自分の涙を見ていなかったから、枯れたかなとか思っていた。
それから一気に堤防が崩れたかのように私は号泣した。
10年分の涙を使い果たしたような気分だった。


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bkm
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