惚れられた彼女
跡部視点

ああ、胸糞悪い。四天宝寺のマネージャー、桜井優奈。あいつのアホさ加減に腹が立ちつい厳しい態度を取ってしまった。あいつと初めて会ったのは中一の夏の全国大会だった。といっても俺が一方的に見てただけという状況だ。四天宝寺の集団の中、紅一点の桜井の姿に自然と目がいった。中一とは思えない容姿と落ち着きで胸が高鳴ったのをよく覚えている。きっとあのとき俺は桜井に惚れていたんだと思う。この俺様がだ。ほんとに桜井は贅沢なやつだぜ。それから約1年が経ち、あいつと再会したのは中二の春に行われた合同合宿だった。久々にあったあいつは背も髪も伸びて一段と大人っぽくなっていた。

「初めまして。桜井優奈です。」


まっすぐこちらを見て自己紹介をしてきたあいつの姿は今でも目に焼きついていた。そしてあの合宿でそれとなく四天宝寺の奴らに桜井について聞きまわったこともよく覚えていた。
同い年で合宿に参加していた白石や忍足達に桜井のことを聞くと、全員口を揃えて無表情無愛想と答えていた。
あまり部活の中でよく思われていないのかと驚いたことも印象に残っている。
それからはひたすら桜井に目を奪われる自分がいて、本当に好きになったんだと認識する。
惚れたせいだからかはわからないが、俺はそこまで桜井のことを無表情で無愛想とは思わなかった。ただ喜怒哀楽の表現がなく淡々と話すやつだなと思った。
だけど一度だけ。あいつが笑ったのを俺は見ていた。
あれはちょうど金色一氏ペアが忍足向日ペアと試合をしている時。スコアをつけていたあいつの横へそそくさと陣取り試合観戦をしていた時だった。
お笑いテニスというまったく意味不明なプレーをする四天宝寺に、会場も盛り上がっていた。

「…ほんとにめちゃくちゃだな…」
「……そ、めちゃくちゃなんだよね」

独り言で呟いたつもりの言葉に返事が返ってきたから驚いた。しかも相手はあの桜井だった。桜井は目でボールを追いつつスコアをつけていて、こちらを見ているわけではなかった。



「でも、それがいいんだよね」


その時だ。桜井が笑ったところを初めて見たのは。こんなにも、さりげなく笑うのかという驚きと、初めて見た笑顔に胸がじわっとした。

それから桜井と直接話すこともなく合宿が終わり。全国大会でも俺から話しかけることはなかった。どうせならもっと強くなって有名になって、向こうから話しかけてくるほどにしたいと思ったからだった。
計画通り俺は中学テニス界で知らないやつはほぼいないほど有名になった。
だから今回の合宿では期待していたのだ。向こうから話しかけてくるんじゃないかと。

だが考えは甘かった。
話しかけてくるどころか俺のこと知らねえだと…?腹が立ってたまらなかった。まあそれで厳しい態度を取ってしまった俺も大人気ねえが…
どうやら桜井に効いているみたいだ。
もっと悩めばいい。俺のことで頭がいっぱいになるくらい。
いつか絶対手に入れてやるからな。


prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -