主人公視点
しまった…少し長引いてしまった。早く氷帝のところにも挨拶に行かなくては。氷帝の部屋は白の間、白の間…あった。ここだ。扉に手をかけ開けようとした瞬間、扉が開いて少しびっくりした。目の前にはさっきの泣き黒子の人が現れた。
「…!何してんだてめえ」
「あ、…挨拶に…」
「優奈ちゃんやん、わざわざすまんなあ。今みんな出てくるとこやから」
「あ、もう集合の時間か…ごめんなさい急いでる時に」
「ええって」
泣き黒子の後ろからにょきっと現れた丸眼鏡…忍足君のとそんなやりとりをしていると、泣き黒子はスタスタと歩いて行ってしまった。
「ちょい跡部、どこいくねん」
「決まってんだろ。コートだよ。時間に配慮もできねえなんて、マネージャー失格だな」
え……
そう言い放つと、泣き黒子、跡部君はエレベーターに乗り込みコートへ向かっていった。
おこ、られた。確かにマネージャーの私が時間を遅らせてどうするんだ……。そんな後悔の気持ちと、ほんの少し跡部君にたいしての腹立たしさでいっぱいになってしまい、氷帝の人たちが挨拶してくれていたけれどほとんど耳に入らなかった。
忍足君や向日君に気にすんな、と言われたがなんとなく気になってしまう。
ていうか普段失敗なんてほとんどしないのになんでこんなときばっかり失敗だらけなのだろうか……
しゅんとなりながらコートへ向かうと、もう皆集まっていて、相変わらず四天宝寺の集団はぎゃーぎゃーと騒ぎまくっていた。途端、なぜかホッとする自分がいる…。なんだこの気持ち
「桜井遅いやん。何してんねん」
「あ…ごめん」
ぐいぐいと一氏に腕を引かれて四天宝寺の集団に混じる。
「優奈ちゃん見て見て〜!これこの日のために準備してきたカツラ!どう?似合う?」
「ぶはは、ハゲにハゲのカツラ被ってどうすんねん」
「先輩らうるさいっす。少しは静かにしてもらえます?」
「生意気やぞ〜財前!」
小春ちゃんも謙也も財前君も一氏もみんな相変わらずだ。少しは石田君と小石川君を見習って大人しくしとけばいいのに…
「優奈」
「…何?」
「なんかあったんよと?」
「え……」
「元気なさそうばい」
…びっくりした。千歳のやつ、なんでわかったんだろ。今までどんなに落ち込んだり悲しい気持ちになったりしても、誰かに悟られることなんてなかったのに。
「な、なんもないよ」
「……」
「大丈夫だって。早く並んで」
じ〜っと見てくる千歳を、ぐいぐい押しながら輪の中へ戻し、私も桜乃ちゃん達と合流して仕事に取り掛かった。
マネージャーなんだから、選手によけいな心配かけたらだめだ。しっかりしよう。
顔をぱちんと叩いて、やる気を出す。そんな様子を跡部君がじっと見ていたことには全く気がつかなかった。