かなしき人よ、どうか手を | ナノ
▼ 03

「うっはー、歩きにくい!」

さくさくざくざくと音を立てながら、雪の積もった大地を歩き回る。いつも登っていたニブル山ではなく、反対側の平地である。あまり豊かではないその土壌に降り積もった雪はさほどの量ではないが、それでも歩きにくいものは歩きにくい。

「やっぱ私が先に練習しないとだねー……」

自分の半分ほどの背丈で、ひょいひょいと何でも無いように雪の上を歩いていたクラウドやティファを思い出す。こういう場所に住んでいるから、こういう場所の歩き方を物心ついたときから身につけているのだろう。
暫くは此処にクラウドを連れ出すにしても、万が一助けが間に合わないと困る。オフィーリアは珍しく抜き身のガンブレードを持ち、ぶらぶらとさせながら雪原を歩き回った。

「おおう、お早いお出まし」

人気のない場所であってもモンスターはいる。オフィーリアはすぐさま向けられた殺気に剣先を向けた。

「ライブラ」

あまり見覚えの無いモンスターだったので、まずは生態を探る。HP・MPの基本情報から弱点・耐性などの情報を引き出すオフィーリア目掛けて、唸り声なのかよく分からない音を立てるモンスターが飛びかかってきた。
紙一重でかわしたババヴェラウミュとの距離を一気に詰め、ガンブレードを薙ぐ。タイミング良くトリガーを引けばドンッ、という重い銃声が響き、両断されたモンスターは二つに分かれたまま地に堕ちた。……は、いいのだが、避けきれなかった体液を少しだけ服にかけてしまい「うわっ」と小さく悲鳴を上げてしまう。

「これだから近距離戦は嫌なんだよー! もおー!」

残りは面倒なのでファイラで焼き払う。静かになったその場で頬を拭うと、緑がかった体液が手の甲に付着していた。これは気持ち悪い。

「やっぱ魔法だねー、うん」

溜息混じりに肩を竦めて、念のためエスナをかける。世の中には食べられるモンスターもいるが、何処までも人間の毒になるモンスターも少なくない。

「How many miles to Babylon?
Threescore miles and ten.」

もはや癖になっている鼻歌を口ずさみ、ふらふらと歩き続ける。村の方向を見失わないように注意しながらも、足取りはやはりいつもより覚束ない。こういう雪の多い場所に長く居た試しがないからだ。
オフィーリアはさておき、『あいつ』はそもそも寒いところが大嫌いだったから。

(……って、誰の話だそれ)

「Can I get there by candle-light?
Yes, and back again!」

内心首を傾げつつも、足は止めない。歩きにくい雪の上であっても、暫くそうしていれば段々とコツが掴めてきた。何度目かの遭遇したモンスターを焼き払い、ギルや時々落とすアイテムを拾っていく。特別仕事についていなくても、モンスターを倒せば金が手に入るのは大変有り難かった。
嗚呼、そういえば小麦粉をまだ買い足していない。そろそろクリスマスもあるし、たまにはケーキでも焼いてみようか。

「ん?」

オフィーリアは特別目が良いわけではないが、それでもこれだけ視界が良い場所であれば、ある程度遠くでも見渡せる。対象がそれなりに大きく、何やら派手な動きをしていれば見つけるには事欠かなかった。

「……わーお」

まず目に入ったのはチョコボの群れ。群れというか、成人した人間を乗せるのに適した大きさのチョコボが数羽だから、群れとはいえないやも知れない。ついでに言うとその上には明らかに人間が乗っていたから、あれは旅人の集団か何かだろう。全員が全員、結構な大荷物だ。
しかし注視すべきはそこではない。そのチョコボ……正確にはチョコボを操る人間達を狙っているのだろう、あまり手入れをされた様子の無い小型のトラックが三台。一台はチョコボ達の前を走って邪魔をしており、二台は群れの後ろにぴたりと張り付いている。その上トラックからは時折銃弾が放たれているようだった。

「追い剥ぎ? 強盗?」

多分間違いないだろう。チョコボに揺られている方も何度か応戦しているようだが、馬力はあっても特徴的な走り方をするチョコボは揺れが大きく、ただ乗るだけならまだしも乗ったまま動くには適さない。反撃はあまり役に立っていないようだ。
あれは拙いな。オフィーリアは乾いた唇を舐めて独りごちた。チョコボが今のところ銃弾に怯えていないからどうにかなっているものの、このままでは恐らく乗っている人間の方が参ってしまう。

「しゃーない、たまには人助けもいいでしょ」

コキリと肩を鳴らして、ガンブレードを一振り。近づいて来ていたモンスターを一撃で屠り、魔力を練る。

「ロキ」

間を置かずに現れた美青年に、オフィーリアは笑顔で未だアクション映画も真っ青な逃走劇を繰り広げている一団を指さす。元々知恵の働く悪神として名を馳せていた彼は、一瞬で主の意図をくみ取るなり盛大に顔を顰めた。

『……クソババア』

しかし反抗は出来ない。麗しき青年の姿は一瞬で立ち消え、代わりに一頭の牝馬が姿を現した。鞍も手綱もきちんと揃っている辺りは大変親切だ。オフィーリアはすぐさまその背に跨がる。

『久々の呼び出しがコレとかふざけてんのか』
「残念、大真面目です。良いから早く走ってよ間に合わないでしょー?」
『いつか殺してやるから』
「あはは! いいねーそれ、頑張ってやってみて?」

ぱちんとウィンクするオフィーリア。馬は苛立たしげに、けれどそれ以上は反論も――当然暴れることも――せず、何度か蹄を鳴らして走り出した。オフィーリアは強烈なやりとりを繰り広げている一団……まずはその先頭のトラックを狙い、もう一度魔力を集中する。

「ダブル」

まず唱えたのは、魔法を一度に二つ唱えることを可能にする時空魔法。当然魔力の消費量も二倍になるが、その辺は別にどうでも良い。

「ウォール! ――エアロガ!」

魔法の障壁がチョコボとその操り手を覆い、今まさに迫っていた銃弾を撃ち返す。そしてほぼ同時に発生した風魔法が、小型であってもそれなりに重量のあるだろうトラックを数メートル吹っ飛ばし横転させる。

「よっしゃあ!」
『……えげつねえババアだこと』

思わずガッツポーズを決めたオフィーリアの下から、ロキの余計なツッコミが入る。それを華麗にスルーした彼女は、恐らく仲間が突然やられてパニックになっただろう残りのトラック目掛けて、遠慮も何も無いファイラを食らわせた。

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