※R15


感傷論



息を潜めて、じっと待つ。暗くて狭い、掃除用具入れの小さく空いた通気口から見回りに来た先生が見えた。

使い古されてひどく汚れたモップが肩にかかって気持ち悪い。

声が漏れないように口には手があてられていた。

シズちゃんの手、あったかいな……

自分の体を優しく包む存在にどきどきと心臓が速まるのがわかる。

先程まで放課後の空き教室でお互いの劣情を絡ませていた。そんな淫らなことを散々したのに、密着した体に自分の胸がときめいているのに戸惑う。

「誰もいないのか」

一通り見回して、そう呟くと懐中電灯を手にした先生は教室を出ていった。


足音が遠のいたのを確認して、音を出さないよう静かに雑巾くさい掃除用具入れから出る。

「まだ先生残ってるんだね。試験の採点でもしてるのかな」

そう言いながら帰ろうと扉に向かおうとしたら、後ろから腕を掴まれた。

「なぁ、臨也、もう一回………」

何をという言葉はキスで途切れて聞こえなかった。

「いいだろ?」

こちらの返事も聞かずに、冷たい床に押し倒される。そもそも、最初から俺に断ることなんて出来ないんだ。されるがまま簡単に服を脱がされて、さっき一度中で出された穴にするりと性器をねじ込まれる。

「んんっ!」

バックと呼ばれる体位でガツガツと腰を揺すられた。

「あっあっあっ……」

太ももには穴から溢れた精液が垂れている。

「くっ!すげー締め付けてくる。たまんねぇ……」

そう熱に浮かされたように言われて、体が無意識に中を締め付ける。

やめて欲しいと思った。
そんなこと言われると、この体を気に入ってくれているんだと喜ぶ自分がいて、この関係から逃れられないと悟る。
また先生が来たら困るから、声は出さないよう下唇を噛んで耐える。
強弱をつけられたその律動に快感が押し寄せて、頭がぼんやりとしてきた。

甘さなど全く無いこの関係はいつから始まったのか。
嫌いだと思っていた彼に抱かれるたびに好きになっていく自分はどうすればいいのか。
貪るようなSEXのあとで、無理をさせたな、とやさしく気遣ってくれる彼の本心はわからない。


どうせ、気まぐれで抱いてるくせに――――。

本当はやめたかった。
殺し合いでもなんでも、元の関係に戻れるのなら何だってするのに。
でも、元の関係に戻っても、SEXを覚えた彼が他の人間とこの行為をするんじゃないかと思うと気が狂いそうになる。
棘に捕らえようと仕掛けたのは自分なのにいつの間にか雁字搦めにくくられて逃げるこができないのは自分のほうだ。

”いっそ、ヤリ殺してくれたらいい”

体だけのこの関係を手放せない自分にそう小さく毒づいた。

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