仕事が片付いてすぐに血液提供者である静雄を呼び出した。
かろうじて、生き血でなくても人間の血であれば問題はないため(と言っても、その味や栄養面からいえば大きく違うのだが)、自宅に篭ることを見越して、臨也は静雄から二日分の血液のストックを貰っていた。ただ、予想以上に仕事が長引き、引きこもって七日目には喉はからからに枯れて体が干上がりそうになった。

電話で連絡を取れば、静雄はちょうど仕事が終わったところだったようで、その足で新宿のマンションまで来てくれた。一週間ぶりの対面に臨也の理性はとぎれ、ヴァンパイアの本能のまま静雄を寝室につれ込んで極上の生き血を貪ったのである。

そして―――――

ぴちゃぴちゃとお互いの舌を絡ませれば、大量に出た唾液が垂れていく。舌で歯列を舐めとり、相手の舌を強く吸い上げる。時折漏れる吐息がさらに劣情を誘う。
臨也の吸血行為、もとい食事の時間が終わるとすぐさま静雄に押し倒された。
さっきとは逆転して臨也の性感帯である首に舌を這わせ(もちろん静雄は吸血目的ではない)、耳も同様に舐めながら時には噛まれた。血を吸ったことで干からびていた体も潤い、くり返される愛撫で次第に別の本能が目を覚ましていった。

カチャ、とベルトを解かれ下着と一緒にズボンを下ろされる。
すでに熱を持って硬くなった臨也の性器が外気に触れてふるりと震えた。

「やぁ…あっ!!」

「血ぃ飲んだばっかだから、すげぇ元気になってんな。エロい汁もでてる」

静雄は臨也の性器を握るとゆっくりと上下に動かしていった。先っぽからは透明な液体がよどみなく溢れ出てくる。

「んんっ、…しっ…しずちゃ… お、おれもしずちゃんのさわりた……っっはぁん!!」

静雄がチロチロと握っているものの先端を舐め、臨也の先走りの汁を舐めとっていく。

「仕事で疲れてんだろ?今日はお前は何もすんな」

「はあ?…ど…したの ふぁっ! いつもいろいろさせるく…せ…にっっ」

会話をしながらも静雄の手は休むことなくそれを扱く。顔を移動させて、先ほどからヒクついていた後ろの穴に舐めとった先走り汁と唾液とを舌越しに擦り付ける。

「!? や…やぁあああ!! んなと…こっ 舐めなっ…でっ!!」

静雄の行動に驚いて臨也は体をのけぞらせた。そんなところ、見られるのも恥ずかしいのに舐められるなんて――!!羞恥心を感じて静雄の顔を放したいのに、やさしくぬめぬめとした感触が信じられないほど気持ちいい。性器を扱く手も、穴を舐める舌も次第に強くなっていく。限界が近い。臨也の瞳は快楽の波に呑まれて潤み、絶え間なくだされる喘ぎ声によって閉じられることのない口からはよだれが漏れていた。静雄はそれを一瞥すると、さらに激しく動かした。

「あぁ らめぇ…! イっちゃ……んんん!!」

一週間吐き出されることのなかった白い液体が勢いよく飛び出した。静雄はつかんでいた手をゆるめながら、臨也の顔をじっと見つめる。この顔がたまらなく好きだ。普段は憎らしいほどぺらぺらと回る口。人を見下したような瞳。それらが自分の与える快楽によって、色情に濡れていく様はひどく興奮させられる。肌を重ねるようになって何年も経つのに、これをはじめて見た時のことを今でもはっきりと覚えている。

*   *   *


―――とさっ。
深く眠り込んでいる先ほどまで殺したくて仕方がなかった天敵をゆっくりと保健室のベッドに下ろした。

「これで、いいか?」

不機嫌を露にしたまま、静雄は何やらごそごそしている新羅に声をかけた。

「あ、うん。ご苦労様。で、静雄ちょっとこっちきて」

新羅に呼ばれて近づくと、丸い椅子に座らせられる。ぐいっと襟元をつかまれて首元を開かれ、何かを確認された。出血はないね、それじゃあ、と腕をまくられて脈を測られた。

「脈拍も異常なし!気分はどう?頭がくらくらするとか、ある?」

「いや、特には」

体調を気にかけてくれたようで素直に応じる。他にも下まぶたをめくられたり、心臓音を確認されたが、理解できていないこの状況について早く説明してほしかった。疑問を口にしようと口を開きかけたとたん聞き慣れない単語を新羅が発した。

「傷口もすでに消えかけてる。これって、静雄の体質のせいかな?それとも、臨也のヴァンパイアの性質?」

……は……?今何て言った?驚きのあまり、固まってしまって返答を聞こうにも声が出なかった。

「びっくり、だよねー。臨也はヴァンパイヤ、所謂、吸血鬼、らしいよ?信じがたい話だけど、百聞は一見にしかず!伝説の化物から生き血を吸われた感想はどうだい?、静雄」

おいおい…。
臨也が…?
ヴァンパイア…?
吸血鬼…?

で ん せ つ の ば け も の … ?

頭の中が混乱してついていけない。じゃあ、あいつは人間じゃないのか。でも、奴はクソノミ蟲っだったよな、とかどれがなんだったかわからない。答えがこんがらがっているのがもどかしく、人より沸点の低い静雄はキレそうになって立ち上がった。

「なんかよくわかんねーけどよぉ、とりあえずコイツ一発ぶん殴っていいか?」

と臨也の眠るベッドの横に立ち、すやすやと眠る臨也の顔を指差した。

「あはは。気持ちはわかるけどね。今はやめといてあげてくれないかな。顔色よくなってるのわかる?屋上にいたときは病的なくらい白かったけど、通常に戻ってる。静雄のお陰だね!なんでも、17歳の誕生日迎えて以来、人間の血が飲みたくなったらしい。つまり、吸血鬼としての本能が目覚めた。けど、簡単に生き血なんて手に入るわけがないから体の機能が著しく低下していたんだね。今日の臨也、違和感なかった?飛んできた扉も、静雄の拳も、紙一重で避けてたよね。いつもならひらりとかわして、後ろに回りこむくらいすばやいくせに」

新羅の言葉に誘導されて、臨也と対峙したときのことを思い出す。そう言われてみれば、確かに今日は動きが鈍かった。血が飲めなくて弱っていたのか、と納得する。

「もしも、静雄の血を飲んでいなかったら、干からびて死んでた――か、本能に突き動かされて無差別に人を襲ってたかも」

それもまた面白そうだ、とでも言いたげに口角をあげて新羅が言った。血を吸わないと干からびて死ぬ。出会ってから今まで死ぬことは願っても生きていてほしいと思ったことなど、一度もない。忌み嫌うこいつが死のうが自分には関係ないし、ましてはそうなってくれたほうが、ありがたい。静雄は眠り続ける臨也の顔を見つめた。

「うーん。まぁ、そうだよね。大概にして臨也が嫌われるのは自業自得、因果応報だし。助ける助けないは静雄の自由だ!ただ、数少ない臨也の友人として言わせてもらうと、臨也が望むだけ血を与えてあげられるのは、世界中を探したって君だけだろう。そして、もしかしたら、それが君のためになるかもしれない」

新羅は妙に含ませた言い方をして静雄の興味をあおった。その話の続きを聞いた結果、新羅の話に静雄はのり、臨也に血液を供給することを承諾した。張本人である臨也が寝ている間に―――。



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