臨也は滲む瞳を揺らめかせてその姿を確かめる。高校の入学式に出会って以来、幾度となく喧嘩……いや殺し合いをしてきた。間違えるはずがない。間違いであって欲しかったけど。顔を下に向け、金髪がさらりと垂れている。気を失っているのか、鳶色の瞳は薄い瞼に隠されていた。ああ、どうかこのまま目を覚まさないで欲しい。今の自分がどんな格好でどれほど汚らわしいことをされているか―――この姿を見られるくらいなら死んだほうがマシだ、と臨也は強く願った。そんな、臨也を無視して、少年は静雄にゆっくりとした足取りで歩み寄ると、顎に手を当てて俯いていた顔を持ち上げた。

「起きて、静雄くん。臨也くんがえっちなことされてるとこ見てあげて」

静雄は漆黒の空間の中で壁に凭れ掛かり、腕は横に広げた状態で黒い影に蒔きつかれて固定されていた。その腕の先でピクリと指先が動き、少年の呼びかけに応じるようにゆるやかに双眸が開かれる。

「……やっ…!」

見られることに恐怖して臨也が、男たちの手から逃れようと再び暴れだした。

ずぶっっ

「あああ!!」

しかし、抵抗を許さないとでも言うように臨也の後孔を舐めていた男の太い指が、唾液で濡れた秘部へ刺さった。指は中でぐるぐると内壁をまさぐりながら、穴を広げていく。本来の機能と真逆のことをされた臨也は唐突の痛みと、そのあとから訪れる微かな快楽に身を悶えた。

「い……ざ……や?」

悲鳴にも似た声に反応して、静雄の目は今やはっきりと見開かれ、目の前の情景を直視していた。見たこともない男が三人。そいつらに囲まれて、真っ裸で苦しそうに顔を歪ませ、唇をかみ締めて耐えながらも赤い瞳から涙をこぼす見知った男……。最初は夢を見ているのだと思った。こんなことが現実であるはずがない。自分は今しがた取立ての仕事を終えて、家に帰ろうと池袋の街を歩いていたのに。見渡せば真っ暗な空間。未だ夢と現の判断が出来かねている静雄に、少年が話しかける。

「静雄くんに見られることが最大のお仕置きだから、ちゃあんと見てあげてってば!」

にたりと笑う少年を見上げる。こいつも見たことがない……が、忘れているだけでどこかで会ったことがあるのだろうか、と初対面ではないような錯覚に陥った。いや、こいつが誰だとかそんなことよりも……ぐぐぐ、と拘束された腕を自由にしようと力を込める。まとわりつく黒い影は、親友であるセルティの放つそれにとても酷似していた。人ではないものが操る物質。人間の枠を超えたありえない力を持つ静雄が精一杯力を込めても黒い影は動かず、さらには蔓のように巻きついてくる。

「く…そっ!外れねえ!!手前かこんなことしやがったのは!!」

静雄はそばにいた少年を睨む。

「えへへ。しょうがないよ。静雄くんは悪くないけど、今回臨也くんはテロを起こそうとしたんだよ?そんなの絶対だめに決まってるよね?街は破損するし、そんなことがあったらテロを恐れて誰も池袋に来てくれなくなっちゃう。俺はにぎやかでちょっと過激なお祭りは好きなんだ。カラーギャング同士の小競り合いとか都市伝説とか街に興味を示すようなことは大いに大歓迎。でもテロはいいイメージないからね。そんな計画立てた臨也くんが悪いんだよ。あ、さっき静雄くんは悪くないって言ったけど訂正させて。池袋最強の肩書きにふさわしいその力は憧れちゃうくらいなんだけどさ、標識とかガードレールとか街の備品をすこーし壊しすぎかなって思うんだよね。だから、ちょっぴり静雄くんにもお仕置き、だよ♪」

話し終わると少年はパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、くいっと顎を動かし前方を見るよう指図した。

「ああ  も やめ… ひうっっ!!」

三本目の指が狭い穴に捻じ込まれて臨也の体が弓なりに跳ねた。指はばらばらに動かされて、一番長い中指がしこりを見つけてこりこりと愛撫する。するとビクビクとおもしろいほど臨也の体が反応した。

「ん やっ そこだ……め!!」

男は臨也の言葉を無視して前立腺を無言で攻め立てる。言葉は発してなくても、ひどく興奮しているようで空いてる片方の手でもう我慢できない、といった様子で乱暴にベルトを外してチャックを下ろした。臨也の性器を扱いている男は、もはや弄られすぎてぷっくりと赤くなった乳首に吸い付いている。

「いざや!おい、臨也!!」

低俗なAVを見ているようで、信じられない。それでもぐちゅぐちゅとした卑猥な音と男たちの荒い鼻息、そして臨也の嫌がる声に混じった吐息がダイレクトに耳に入ってくる。『殺す』と、初めて会ったときから湧き上がる衝動は、目の前の臨也の姿を見せられては微塵も出てこなかった。それどころか好き勝手に体をまさぐられて、無理矢理に快楽を与えられて……弱りきった臨也を助けてやりたいと自然に思っていた。

「い…ま、助けてやる…から!」

もう一度、全身全霊の力で黒い影を引き剥がそうとする。それでもやはり影が剥がれることはなく―――。

「しず……ちゃん……見…な…で 見ない……で んん―――」

自分の痴態を静雄に見られることがつらくて、臨也ははぁはぁと息を吐きながら懇願するも最後には三人目の男が臨也にディープキスを仕掛けた。

「ふっん む、 ふ、 あ んっ」

既に抵抗する力がなくなった臨也は、したくもないキスを受け入れて、強引に絡ませてくる男の舌を啄ばめた。よだれと涙とが黒い地面に滴る。後ろではズボンを膝までずり下ろし、穴から指を抜いた男はパンツも下げると、そそり立ったペニスを解されてヒクついている臨也の後孔へ今まさに入れようと宛がった。

「臨也っ!!」

自分の力がこれほどまでに通じないなんて。静雄は生まれて初めて自分の非力さに絶望した。その瞬間を見たくなくて、反射的に顔をそらす。すると、

バキッ!!

「ぐあっ!!」

鈍い音がして、今まで無口だった男の悲鳴が聞こえた。

「ねぇ。何勝手なことしてんの?お前みたいな低脳で下衆な奴が臨也くんの中に突っ込んでいいと思ってんの?そこまで俺は命令してないだろ。興奮して本能丸出ししてんじゃねーよ」

少年が下半身をさらけ出して地面に倒れた男をもう一度踏み潰す。
すると倒れた男に代わって、乳首を弄っていた男が後方へ移動して、手淫をしながら臨也の後孔を舐め始めた。手の動きも蠢く舌も速くして、臨也を絶頂へ導く。

「あ……やだ……だめ で、ちゃあ―――――!!」

絡めていた舌を剥がして、臨也は叫んでいた。
ポタポタと臨也の性器から白い液体がこぼれる。イったことで力尽きたのか、くたりと臨也は体を地面に横たわった。


「ちょうどいい時間だね!」

先ほどの怒りはもう成りを潜めてぱっと笑顔を作った少年が臨也と静雄を見やる。
右手をすっと挙げて、ぱちんと指先を鳴らすとどこからともなく、少年の後ろの闇夜に大きな時計がぷかりと現れた。
針は、長針と短針が重なり合って上を向き、ちょうど12時を指そうとしていた。

「さぁ、カウントダウンしよっか?じゅう、きゅう、はち、なな、ろく、ごう、よん、さん、にい、いち、ぜろ!!臨也くんっ、おたんじょうびおめでとう!!!」

両手を広げて、ひとり楽しそうにはしゃぐ少年。ごーんごーん、と時計から鐘の音が12回鳴り響き、辺りが静まり返ると少年はにっこり微笑んだ。それはもう今までにないほど無邪気に。

「さあて、これからは臨也くんにプレゼントの時間だよ♪」