俺を担いだまま、シズちゃんはボロいアパートの階段を昇る。片手で鍵を開けて、部屋に入った。ここシズちゃんの家……。なんで? シズちゃんはソファーに俺をやさしく降ろした。 「えっと、シズちゃん……?」 わけがわからなくて、視線を泳がしていると目の前のテーブルに釘付けになった。 テーブルの上には、たくさんの料理と大きなデコレーションケーキが二つ並べられていた。中央のチョコプレートには”HAPPY BIRTHDAY””臨也”って―― 「臨也」 呼ばれてシズちゃんに目を向けると、シズちゃんは神妙な顔つきで正座していた。 「ごめん」 紡がれた言葉に息を呑む。 「一年前、お前の誕生日忘れて、ごめん。最低だよな。お前の誕生日忘れて、飲みにいって、挙句に電話してきてくれたのに俺は気づかなかった。しかも、ひでぇ態度取っちまった。お前が愛想つかしても、仕方ないよな。俺の誕生日は、俺の喜ぶことばかり手前はしてくれたってのによ……。謝っても許せねぇとは思うけど、謝らせてほしい」 真剣な顔で俺の顔を見てから、シズちゃんは深々と頭を下げる。 「本当にごめん」 「シズちゃん……」 「この一年、ずっと後悔してた。あのときの俺を殺してやりてぇって何度も思った。今も思ってる。今日はお前の気の済むまで俺を殴ってくれても構わない。お前に嫌われて、別れて、お前のこと忘れようとしてもやっぱり無理で。追いかけるの辞めたくても、お前を見れば追わずにはいられなくて。でも、いざ捕まえられる距離までいくと拒絶されんのが怖くて、触れられなかった。触れられなかった分、前以上にお前に対して好きっていう気持ちが募っていった」 「好……き……?」 「ああ、好きだ。今でも。俺は、お前を好きだ」 はっきりと紡がれた言葉に、心臓が大きく脈を打つ。俺はどう答えればいいのかわからなくて、ぐちゃぐちゃとした感情のままシズちゃんを責めた。 「今さら……今さらじゃないか!!おれ……この一年つらかっ……!」 「悪かった。ごめん……ごめんな」 「誕生日、一緒に過ごせなくてさみしかった」 「ごめん」 「俺以外の人と楽しそうにしててすごい……むかついた」 「ごめん」 「シズちゃんにおめでとうって言ってもらいたかった」 「ごめん」 我慢していた涙がこぼれる。一年前は言えなくて……素直に言えればよかったのに、変わりに言ってしまったのは別れの言葉。高ぶる感情に肩が震えていると、シズちゃんの腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられた。 「お前がまだ俺のことほんのちょっとでも好きなら、チャンスがほしい……一年前の分も一緒に祝わせてくれねーか?」 顔を上げると切羽詰った表情をしたシズちゃんと目が合う。 「今度は絶対大切にするから」 「シズちゃん……」 「もう一度俺と付き合ってほしい」 シズちゃんからされた二度目の告白。 もう一度、やり直せるのかな。 また、同じ過ち繰り返さないかな……。 躊躇するような不安要素もいっぱいあって、もし二度目の別れが来たら今度こそ立ち直れないとかすでに考えちゃってたりもしたけど、俺の答えはひとつしかなかった。 「うん。俺もやり直したい、シズちゃんと」 控えめな声でつぶやくと、今まで以上に抱きしめられた。込められた力が強くて、少し痛かったけど、触れた体温が気持ちよくて俺もシズちゃんの首に手を回す。そのまましばらくお互いの感触を確かめていた。すると視界いっぱいに広がっていた金髪が離れて、シズちゃんは俺のおでこと自分のおでこをこつん、と合わせた。 「臨也、誕生日おめでとう」 ずっと聞きたかった言葉。 やっと聞けた、『おめでとう』。 どうか、これから先は一番に聞けますように。 *おまけ* 「俺、シズちゃんが誕生日忘れたこと一生ちくちく言うからね?」 「おう」 「あと、来年のシズちゃんの誕生日はスルーしてやる」 「……お…う」 「最低今年いっぱいは俺の言うこと何でも聞いてね」 「………お………う」 「じゃあ、とりあえず……キス……して?」 −−−−−−−−−−− まじで、大遅刻すみません。 110519 |