「え……と、どた…ちん?」

「臨也……」

いきなりのことに俺の頭はパニック寸前だった。
どうして俺たちは、仲良く個室に二人で入ってるのか?
ドタチンの目つきがいつもの優しい眼差しから、見たことのない鋭さを宿していて、そんな瞳とかち合うとごくりと息を飲んでしまった。

こ、こわい……

体を強張らせていると、ドタチンが俺の首元に唇を寄せてきた。

「や、ドタチン……てば…!」

「臨也、四木さんて人に襲われて、ここ反応したんじゃないか……?」

舌を肌に這わせながら、ドタチンは俺の下半身をやさしく撫で上げる。
『ここ』とはつまり男として、快楽を得れば自分の意思とは関係なく勃ち上がってしまうモノのことで……。俺は四木さんに襲われて、そこが完全に反応する前に逃げ出してきたわけなんだけど、今はドタチンに軽く刺激されて、またもや反応してきてしまう。

「ふあ……さわん……ないでよぅ あっ」

ドタチンが、首の皮膚の薄い部分をちゅううっと吸えば、ちくりと軽い痛みが走った。それと同時に俺のベルトがいとも簡単に外されて、ジッパーを下ろされると、押さえるものが無くなったズボンがすとんと足元まで落ちた。下半身が下着一枚になったことに焦って体を離そうとするも、ドタチンの左手が腰に回されて動けない。もう一方の手が、俺の下着の中へ入り込んできた。ゆるく勃ち上がった性器を握ると、柔らかい手つきで扱いていく。

「あ や……やぁ」

「硬い、な。気持ちいいか?臨也」

そう言いながら、ドタチンがしゃがんで下着をするすると脱がし始める。

「え?やっ……!!」

驚いてドタチンの頭を掴んで引き剥がそうとするより早く、俺のモノを熱い何かが覆った。根元まで加えられて、強く吸われる。いきなり与えられた甘い刺激に俺の腰がしなった。ぐりぐりと尿道を舌先で突付かれて、一番弱いくびれの部分を執拗に舐め取られる。ドタチンの唾液と先走りの汁が混ざり合って、じゅぷじゅぷと卑猥な水音をトイレ中に響かせていた。

「だめだっ…て、」

ここが公園の公衆トイレだということを思い出して、必死にドタチンの口から逃げようとしても、力が入らなくてされるがままになってしまう。それどころか、電気が通ったように体中がぴくぴくと反応している。

「ああ……んっきもち いい……。どた……ちん、や、ば、で、ちゃうっ」

その言葉を合図とでも言うように、根元を手でぐいぐい扱かれ、ピストンのごとくドタチンの口を出たり入ったりする動きが速くなった。これでもかというくらい喉元まで咥えられたとき、熱い白濁液がびゅるるっと吐き出された。

「やああ!でちゃっ ……」

ドタチンの口内に吐精したことにすぐさま罪悪感が湧き上がって、自分の前にしゃがむドタチンに目を向ける。残り汁をちゅうちゅうと吸い出すと、口からこぼれた精液をペロリとなめて、見上げられた。

「誕生日おめでとう、臨也。その……気持ちよく…なれたか?」

いつものやさしい表情にうっすら赤い顔をしたドタチン。……なんで?
誕生日だからってこんなのって……。羞恥心にかきむしられて、心臓がどくどくと速い速度で脈を打つ。ドタチンは下がっていた服を整えてくれて、ゆっくりと立ち上がった。俺は至近距離で顔を見ることが出来なくて、ぱっと顔をそらす。

「臨也?」

不思議そうにしたドタチンが俺の髪に触れようとして、もう耐え切れなくなった。

バタンッ!!

勢いよく扉を開けてわき目も振らずに走り出した。
無我夢中で走りついた先は、池袋駅で。ああ、もう帰ろう。家に帰っておとなしく過ごそう。新宿へ帰る決心をすると、駅の前の交差点が赤信号になったので立ち止まる。ふと、見上げると大きな街頭パネルがテレビ映像を映していた。

あ、幽くん……

トーク番組で司会者と近日公開予定の主演映画について話している。
そういえば、街のあちこちで幽くん――もとい羽島幽平のポスターが見受けられた。

『あーそれではそろそろ番組も終了のお時間です。羽島さん、今日は本当にありがとうございました』

『いえ、こちらこそ、楽しい時間でした』

『最後にファンの皆さんに一言お願いします』

『とても面白い映画なのでぜひ映画館へ足を運んでみてください』

兄であるシズちゃんとは対照的に普段は無表情な彼も、テレビに出るときはきちんと好感度の高い青年を演じている。

そうだよね〜シズちゃんのキレっぷりは、異常だもんねぇ……あれ見て育ったら、反面教師にして感情出さない方向にいくよね。そんなことを考えながら、ぼんやりと街頭テレビを見つめていると―――

『すみません、もうひとついいですか?』

『メッセージですか?』

『はい。今日知り合いで誕生日の方がいて、お祝いの言葉を贈りたいんですが……』

『どうぞどうぞ』

”誕生日”という言葉にびくりと反応する。は、まさかね。彼が俺の誕生日を知ってるはず……

『臨也さん、お誕生日おめでとうございます。これからもうちの兄をよろしくお願いします』

ん?

え?

なに!!??なっ、名前出した今?ペコリと頭を下げた幽くんはごきげんようと言う司会者の言葉に合わせて手を振っている。画面にはエンドロールと制作スタッフの心遣いなのか、ピンクの文字で『臨也さん、お誕生日おめでとうございます』とテロップが出ている。

は?ま……じ… ありえないだろコレ。全国放送で名前出し、とか……。そもそも、俺一般人だからみんなわかんねーだろ……。おまけに、兄をよろしく、って……。一番よろしく出来ない関係なの俺なんですけど……。混乱して一歩、二歩、と後づさった。

パチ―――…

俺の背後で誰かが手を叩いた。

パチパチ―――パチパチパチパチパチパチ

気づけばいつの間にか俺を中心に輪が出来ていて、一様に拍手された。口々に『誕生日おめでとう』と言いながら。どうして?なんでわかんの?街全体がおかしい!!

こわい、こわい、こわい!!

またしてもその場から逃げ出す。道行く人にぶつかっても気にしない。
不本意に駅から遠ざかってしまって、電車にはの乗れなかったからタクシーでも捕まえて池袋から離れよう。
とにかく、ここはやばい。いたらだめだ。俺の直感がそう叫んでいる。


随分走って、立ち止まる。はぁはぁと、膝に手をついて呼吸を整えていると、目の前にはよく知るマンション。ただの偶然か、はたまた無意識に助けを求めてたのか―――。一応、あいつだけは昔から異常なほどに変態だ。デュラハン限定でだけど。きっと……きっと、今まで会った人たちのように普段と豹変するとうことは99.9%でないだろう。ないはずだ。ないであってほしい!!そう強く願いながら、エレベーターに乗り込んで、闇医者の住まう階のボタンを押した。