■アテンション!!
■臨也総受けです。
■R15




誰か、この状況を説明してほしい。
これは一体どういうこと?

普段と違う目の前の人間に冗談やめてよ、と制止を求めても、「俺はマジだ」と返された。会えば即刻コンビニのゴミ箱を投げてくるような間柄で、どう考えてもこの状況はおかしい。

だって、シズちゃんが

俺を


押し倒す、なんて―――


神様からのプレゼント


そのおかしなことは、俺が朝起きて軽くパソコンをいじってから、仕事のためにここ池袋に着くまでずっと連続して起こっている。

花屋の前を通れば、花束を渡された。
キオスクで缶コーヒーを買えば、ガムをおまけしてくれた。
電車に乗れば、席を譲られた。
コンビニで買い物すれば、消費税分値引きしてくれた。
俺と目が合えば、みんなにこっと微笑み返してお辞儀される。

何これ気持ち悪い。

誰かの陰謀?自慢じゃないけど恨まれるのは慣れっこなんだけどさ、今回のは悪意というよりはその逆に近い。簡単に考えると、どっきりでも仕組まれたのかなって思うようなことばかりされているんだけど、なんで?

持っていたかわいらしい花束をじっと見つめて考える。一応、原因となるものに心当たりがないわけじゃない。今日、5月4日は俺の誕生日だ。でも、それで数々のことに納得できるわけがない。毎年一度は誰にでも必ず訪れる日だし、道行く人々がそれを知っているのはおかしいだろう。ただ、こんなの信じるのは俺の理念に反するんだけど、夢でみたことがどうにも引っ掛かっていた。それはおぼろげに憶えている昨夜の夢―――。

もやもやとピンクの霧が漂う空間で、ぽつんと突っ立っている俺に上のほうから声が聞こえてきた。それはどこかで聞いたことがあるようで、どこのだれでもない不思議な声色。


『人でありながら、人間愛を叫ぶ奇特な人間、折原臨也。
君に、特別に誕生日プレゼントをあげよう。
今日一日、大好きな人間に愛されなさい』


偉そうなその言葉にイラッときた俺は、すぐさま目を覚ましたわけなんだけど……。
あれが全ての原因だろうか。そんなまさか……たかだか夢の中でのことが現実にも影響を及ぼすなんてありえない。考えたことを否定するように頭を振る。それよりも、もしかすると、まだ自分は眠っていて夢の中かもなんて思っていると、目の前に来良の後輩が現れた。

「あ!臨也さん!!ちわっす!!」

「正臣くん……に帝人くん?」

「こんにちわ、臨也さん。こんなところでどうしたんですか?」

「あー、ちょっと考え事を、ね」

歩道のガードレールに腰掛けていた俺を二人が取り囲む。
GWだから、仲良く買い物でもしてきたというところだろうか。
それぞれに紙袋を抱えているのを見て瞬時に推測していると、その紙袋を二人がずいっと俺に差し出してきた。

「「誕生日おめでとうございます!!」」

「え?」

「これ、プレゼントです。お小遣いあんまりなくて、たいしたものじゃないんですけど、喜んでもらえるとうれしい……です」

「あ、俺はバイトしてお金貯めたんで、帝人のより高価っすよ!!」

「プレゼント?俺に?」

「「はい!!」」

満面の笑みで答えた二人は俺の手に紙袋を渡すと、それじゃあこれで、と去っていった。ぽかんとその姿を眺めていると、後ろから何かが飛びついてきた。

「いざ兄〜〜〜!!みぃつけた!!」

「舞流に九瑠璃」

「兄(兄さん)……久……(久しぶり)」

「これこれ!!あげるね〜」

ぼふっと大きな袋を顔に押し付けられた。

「ぶっ!?なんだよいきなり」

「ぷ・れ・ぜ・ん・と、だよん♪こっちはクル姉から」

と、舞流は九瑠璃が持っていた袋をひったくってまたもや俺に押し付けると、勢いが良すぎたために中身がぶちまけられた。

「げ」

「あはは。クル姉ってば、プレゼント、セクシーな下着にしたんだ!私のはメイド服だよ!これ着て静雄さんに迫ってね」

「ばかか。」

「イザ兄、お誕生日おめでとう!!って、あ、幽さんのラジオの公開収録始まっちゃう!!急ごう、クル姉!!」

「誕……祝……(お誕生日おめでとう)、去(それではまた)」

「なんだあいつら」

嵐のように去っていった妹たちの後ろ姿を見送ると、頭に引っ掛かっていたブラジャーを急いでしまう。
よりにもよって、なんで女性用下着なんだよ。こんなの貰ってどうしろっていうんだ。しかも、何か勘違いしているし……(どうして俺がこれ着て、シズちゃんに迫らなきゃいけないんだよ。あほか)

とりあえず、そろそろ仕事の時間だ。
取引するのに邪魔になるため、一旦駅のコインロッカーに貰ったプレゼントたちを預けてから、いつもの指定された路地裏へ向かった。そこには、お得意様である粟楠会が所有する黒塗りの高級車がすでに待機していて、コンコンと窓を叩いてから乗り込む。後部座席には粟楠会幹部の四木さんが座っていた。

「お待たせしました、四木さん」

「こんにちわ。あなたに会うのは久しぶりですね。お元気でしたか?」

「ええ、おかげさまで」

「それで、仕事なんですが、とある会社について調べて欲しいんです。この封筒に詳細が入ってますので」

四木さんにA4サイズの茶封筒を渡され、中身の書類を出そうすると手首を掴まれた。

「それは後で確認してください。それより……」

「えっ…」

ぐいっと引っ張られて、俺は四木さんに抱きしめられた。

「ちょっ、四木さん?」

「折原さんは、今日が誕生日だとか?」

「ええ、まぁ、そうですけ……ひゃっ!」

いきなり耳を舐められて、変な声が出てしまった。拒もうとするも、ぺろぺろと耳や首筋を舐められたりして力が抜ける。

「ふ や……め……。ふ、ぁ」

「……おや、意外と感じやすいんですね」

四木さんの唇が段々と下がり鎖骨を舌先でなぞられ、ちゅうっと吸われた。気づけば、いつの間にか狭い車の中で押し倒されていた。

「な、なにを……」

「さっき誕生日だと知ったばかりで……。あいにくプレゼントを用意できませんでしたので、せめて気持ちよくさせてあげますね」

「は?ぁんっ!」

Vネックを捲られて、乳首を舐められた。執拗に刺激を与えられ、中心が硬くなる。

「感度がいい。もう両方とも立ってますよ。こちらはまだ舐めていないのに」

きゅ、と舐められていなかった右の乳首を摘まれる。

「あぅ 」

指先で引っ掛かれたり、ぐにぐにと弄られれば、自分の口から甘ったるい声が出て恥ずかしくなる。こんな昼間からいくら路地裏とはいえ、車の中でなんて大胆すぎる行動に緊張と少し興奮している自分がいるのも確かだったけど、四木さんの手がベルトにかかったところで我に返った。

「や、やめ……てくだ…さい!」

両手で慌てて四木さんを押しのけて、車から飛び出すと呼び止める四木さんを無視して走った。

なんで、四木さんいきなりあんなこと……

今まで単なる取引相手でしかなかった人間に、今しがたされたことに混乱していると、誰かに腕を引っ張られた。

「臨也?」

振り返れば、不思議そうに首を傾げたドタチンだった。

「どた、ドタチンーー!!」

俺は、心許せる数少ない友人に安堵して、泣きついた。ドタチンは、とりあえず落ち着け、と俺をなだめると、公園のベンチまで手を繋ぎながら連れて行った。

「それは仕方ないかもしれんな」

「ふぇ?」

四木さんに突然されたことを話すと、予想外の返事が返ってきた。
ちなみに、俺の予想だとドタチンは「それはひどいことするな」とか言うかと思ってたのに……。

「お前、今日誕生日なんだから……」

「え?え?誕生日だと仕方ない……って、なんで」

「誕生日の人間を喜ばせたいって思うのは普通だろ?」

ドタチンはふわりと笑いながら、四木さんの行動に何ら間違いはないと説明する。そういうものだろうか、いや、でもああいった行為はおかしいんじゃ……と考え込む俺の手をドタチンが再び繋いで公園の公衆トイレに向かった。なんだろうと思っていると、男子トイレの個室に連れ込まれる。

「俺も、そう思ってる一人だ」

ドタチンの背後で個室の扉がバタンと閉まった。