卒業まで残すところあとわずか…中学三年間を振り返って、何が楽しかったかなんて聞かれても埋没する日々に馳せることなどない。それなりに刺激あるものだったかと考えるも、ひどく歪ませられたから”楽しい”とは違うだろう。
ああ、でもそうだな。誰にも言えない秘密ができたよ。俺自身が認めたくない感情で、未だに燻っていることに吐き気を催すぐらいだけど、俺も人間で思春期だったってことで仕方がなかったんだ。
悪いのは無邪気に人の家で、勉強会と称してゲームにあけくれたまま眠気に負けてやすやすと無防備に寝顔をさらしたあいつだろう。まず、俺たちは成績はすこぶるよかった上に、難関高を受験するわけでもないから、勉強会自体必要性を見出せない。まぁ、雰囲気を味わうのもいいかと一端の受験生気取りで参考書に目を通すも、1時間と持たなかった。愛しの彼女に勝てないから、特訓して強くなって帰る!と意気込んで対戦ゲームに興じて3時間。11勝10敗でリベンジだ!!とか言いながら始めた一戦のさなかにコントローラーを抱えたまま彼が寝てしまったのは、すでに夜中の1時を回ったところだった。夜更かしに慣れてる俺は、眠る友人に毛布をかけて、お菓子や飲み物を片付けてから寝ようと電気を消した。代わりに間接照明の明かりがぼんやりと薄暗く光っている。
それでね。
いつの間にか芽生えていた俺の淡い恋心が胸の辺りを締め付けた。一生に一度。最初で最後。だからいいだろう。そう思って、眠る彼に口づけた。音もなくそっと触れただけだったけど、全神経が唇に集中して熱がこもる。彼の思い人は首から上がないから、この唇に触れることができたのはこれまでも、これから先も俺だけだろう。その事実に胸が高鳴ったけど、彼がむにゃむにゃと寝言で彼女の名前を呼んだから、悔しくて、もう一度重ねた。
心の中で願いながら。
俺の名前も呼んで、と。

……これは秘密だよ。