■side 門

 
自分で自分の性格を分析してみると、周りの人間のもつ印象と違った一面を持っていることがわかる。大体にして、人は誰かの前では建前と本音を使い分けて、自分の本心をさらけ出さずに仮面をかぶって取り繕うことは無意識にやってしまうものだろう。

俺は自分でも感情の起伏は穏やかなほうで、めったに心を乱すことはないと思っている。もちろん、もともとの性格でもあるし、できれば物事を冷静に判断するよう心掛けてもいる。
そんな俺が高校時代に知り合った旧友たちは、人間愛をおもむろに叫んだり、愛しの彼女への愛をくどくどと語ってきたり、一瞬にして沸点が湧き上がってキレたり、と普通より己の感情に正直でわかりやすい奴らばかりだった。
とりわけ、今俺の腕の中で眠る人物は、自分の人間観察という変わった趣味に忠実に生きている。職業も情報屋などと、その趣味の延長線上に並んだものだから筋金入りだ。

こいつが新宿へ移り住んでも、高校から続く俺たちの関係が途絶えることはなかった。
定期的に会っては何も変わることなく交じり合っていたのだが、今回は―――――
すやすやと眠るきれいな顔を眺めてから、シーツをそっとめくる。
閉じられた足をゆっくり開いて、足の付け根の太ももの内側を見れば、はっきりとその跡が見て取れた。俺がつけることはない、噛み付いた歯形の跡。臨也は俺にはばれていないと思っているだろうが、臨也と静雄がそういう関係であることは既に知っていた。

少し前に、臨也が俺に会いに池袋に来てくれたものの、急な仕事が入ってしまった日。
悪い、と一緒に過ごせないことを詫びると、仕事じゃしょうがないよね、と寂しそうに笑った。臨也と俺の休みはなかなか重ならない。久しぶりに会えると約束したのに、仕事とはいえ反故してしまったことに罪悪感を覚えて、早急に仕事を終えて、会いに行こうとすると、二人がホテルから出てくるところを目撃した。

いつもの、喧嘩をするでもなくお互い無言で、しかも言いようのない雰囲気をまとわりつかせて歩いていた。一瞬で俺の中に激しい感情が込みあがった。明らかな怒りと嫉妬。それと、かまってやらなかった自分への憤り。そのときに、ああ、俺は臨也が好きなんだと思い知った。こいつは俺のことを好きだなんだと昔から言ってくれていたが、俺からそういった類の言葉を伝えたことはなかった。その分、俺の気持ちが伝わるようにやさしく触れるようにはしていたが。

「お前は俺のものじゃないのか」

そっと紫色になっている歯形を撫でる。
臨也の気持ちは俺に向いていると慢心していたのかもしれない。そして、他人の感情に敏感な俺は、否が応でも臨也に向けられる思いにも気づいてしまった。好きならなんで暴力を振るってしまうのか俺にはわからなかったが、あいつも芽生えた自分の気持ちに戸惑っているんだろうな、とキレやすい友人を思い浮かべる。
先日、自分が嫉妬や怒りの感情を持つことを知って驚いたのに、今日もまた沸きあがる感情が抑えられない。

太ももにつけられた歯形の跡の横に口づけて強く吸った。
行為の後に勢いでつけてしまった首元のキスマークのように鬱血痕が残る。
臨也がピクリと反応したが今日はいつもより激しめに抱いたから、起きることはなかった。

「悪いな」

俺と同じ感情をこいつに持っている金髪の友人に詫びる。
渡すつもりはない。意外にも独占欲が強い自分を発見した。