■side 臨


体にやさしい口づけが落とされる。
ちゅ、ちゅと唇は小さな音をたてながら、首筋から胸、背中と全身くまなく移動していく。その気持ちよさに酔う反面、体のあちこちにある傷口に触れられると、僅かな痛みが走った。


「ふぁ……ん!…」

「ここ、まだ治ってないのか」

脇腹にできた傷口にキスをして俺が身じろぎすると彼は、行為を一旦中断して俺を覗き込んだ。

「ああ。治りかけてたんだけど、この前出くわしちゃったときに自販機投げられて、避け切れなくてさ。また同じところにぶつかっちゃったんだよね。避けるときの癖があるみたい」

「……せっかくきれいな肌してるんだ、傷つけたらもったいないだろ。というか、心配だから無茶するな」

「むー。俺は悪くないでしょ。あっちが勝手にキレて追いかけてくるだけ」

「お前が池袋に来なきゃいいだろ」

「やだ。ドタチンに会いたいもん」

俺が素直に言うと、彼は少し照れながら「そうか」と苦笑した。
その顔にときめいて、ちゅっとキスのお返しをする。早く続きをして、と目で訴えた。

ドタチンとの関係は高校からだから結構長い。適度な間隔で裸で触れ合うのは既に日常のこと。つきあっている、と断言していいものかわからないけど彼とするセックスは心地よくて、ベッドの上で交わされる会話も甘くて好き。生傷が絶えない俺の体をすごく労わってくれて、決して無理強いはしない。ドタチンは誰にでも分け隔てなくやさしいから、別に俺限定ってわけじゃないんだろうけど、これをしてるときはドタチンが俺だけのものになったような気持ちになってくすぐったい。

ぼやーっと考えていると、キスされて舌が絡ませられた。貪るなんて表現じゃなくて、やさしく丁寧にその味を確かめるように舐められて吸われて、次第に深くなっていく彼のキス。それと同時に大きな手で俺の秘部をローションで濡らしていく。通常なら冷たいローションもちゃんと手のひらで温めてから触れてくれる。やさしいなぁ。
指を一本から二本に増やして、いい感じに解されると自分でも恥ずかしいくらいに彼が欲しくなってしまう。だって、本当に丁寧に愛撫してくれるから、ふわふわと快楽の波間を漂っているみたいになる。

「入れる……ぞ」

「ん……」

俺の了承を得てからドタチンは自分のモノを俺に沈めてきた。ずぷずぷと飲み込んで、根元まで咥えこむ。

「はぁ……あうん……」

じっくり慣らされても、通常の用途とはちがう行いをされた俺のあそこはその刺激にぎゅうっと無意識に穴を狭めてしまう。

「く……きつ……いな……。苦しく…ないか?」

「ふ……も だいじょう……ぶ… うごいて…いいよ?」

俺の返事を聞くとゆっくりと律動が開始される。徐々に体全体を揺すられて、あまいあまい口づけをされながら、やっぱりドタチンのセックスはいいな、と結論付けた。
……ドタチンには内緒だけど、俺はシズちゃんともこういう関係を持ってしまっていた。
それは数えれば片手でこと足りるくらいしかしちゃいないけど、欲望をぶつけられるような激しいセックス。まぁ、単純なシズちゃんらしいけどね。そんなことになったきっかけは、この脇腹の傷だった。いつものように自販機を避けようとして、目測を見誤って掠ってしまった俺は走った痛みにその場でしゃがみこんでしまった。するとシズちゃんが近づいてきたから、止めをさされると思って身構えると、ひょいっと抱きかかえられて近くのラブホに運ばれた。シズちゃんはただ介抱するために連れ込んだんだろうけど、シズちゃんの意外な行動とその日はドタチンに仕事で会えないと断られて家に帰るところだったから、少しの好奇心と溜まった性の捌け口として誘ってみたら、またまた意外にもシズちゃんが乗ってきたことがはじまり。

ドタチンの慣れた手つきとは正反対に、たどたどしくも早急に動く指や噛み付くようなキス。
ガツガツと今度はそれこそ貪られるように腰を振られる。あれ、シズちゃんご無沙汰だったの?って心配になっちゃうくらい激しくて、たまにはこういうのもいいかも……とほんのちょっぴり思ったけど、こうしてドタチンに抱かれてみるとやっぱりやさしく触れられる方が心も満たされる。―――と、俺がいけないことを思い出していると、ドタチンの動きが止まった。

「? どうかした?」

ドタチンは俺の両足を持ち上げたまま、視線を落として固まっている。

「……いや、何でもない」

不思議に思って投げかけた俺の質問に短く答えるとまた腰を動かして、程なくして二人同時に果てた。俺の中に熱い液体を吐き出しながら、ドタチンにしては珍しいくらい激しいキスをされたあと、首元にキスマークをつけられた。普段はそういうことしてくれないから驚いたけど、久しぶりのセックスでドタチンもうれしかったのかな、なんてほほえましく思ってた。


シズちゃんが俺の知らないうちに、太ももの内側に噛み跡を残していていたことなんて俺は知らなかったから。


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