まわり道 | ナノ
「おい、だからシャワーって何だって聞いてんだよ。」
「え、と…ベクター、お風呂入ったこと、無いの…?」
「ハァ?シャワーの話ししてんだろ?」
「あのね、どんな人でも大体毎日シャワーかお風呂は入るし、今まで1度も無いっていうのは流石にあり得ないと思うんだけど…。ベクターって何者なの?」
「………。」
「結構当たり前の事知らないし…そういうの知るために私を使ってるんでしょ?」
「そこまで見当ついてんなら俺の回答なんざいらねーんじゃねぇの?カシコイなまえチャン?」

流石にこれはおかしいと、いくら詮索するなと暴力を働かれるのが怖くても見逃せる事では無いと、緊張しながらも質問してみる。するとベクターは不満げな表情から一転していっそ上出来だという様な笑顔になり、まるでマニュアルでも用意していたかの様に落ち着いて対応してきた。更には見当がついているならなんてまるで私の想像が当たっているかの様に言って私の意見を促す程に余裕があるらしい。自分が私生活に対して無知で、いつか墓穴を掘るというのを分かって居た様だ。私は一呼吸分躊躇してから、ファンタジックな自分の考えを述べた。

「ベクター、たまに人間人間って、言うよね…実は人間じゃない、とか…。…なんて、そんなわけないか。」
「いーや、間違っちゃねえぜぇ?ご褒美にもいっこ教えといてやるとこの世界のモンでもねえ。」
「…からかってる?」
「信じる信じねえは勝手だぜ?情報の取捨選択は大事だからなァ。」

零くんで学んだけれどとっても演技上手な彼の事だ。人間の事を何も知らない、異世界の何かのフリだって出来るだろう。…でも、そんな事をわざわざ私にやって見せる意味もメリットも無さそう。しかし、ベクターが何者なのか、本当に人間では無いのかなんて事よりも、今大事なのは彼がシャワーの浴び方が分からないだろうという事。他人の家のバスルームで使い勝手が分からないというレベルじゃ無い。おそらくは1から全て教えなければならないのだ。シャワーは夕飯の後とベクターに告げて、止まっていた夕飯作りを再開させつつ溜め息を漏らした。




「タオルを、腰に、巻いて、ください!」
「何怒ってんだお前。」
「いいから!異性相手には人間は特にそうするの!下着とかも大体そのためのものなの!」

脱衣所から声が掛かって入ってみれば案の定バスタオルが1枚余って掛かって居たのでなるべくベクターの方を見ない様にしてタオルを押し付けた。いくら相手が年下の男の子だからって私もまだ思春期な年齢だという自覚はある。タオルを巻いたベクターを風呂場に押し込み、短パンにTシャツという風呂掃除スタイルで私も入る。

「狭いのは我慢してね。本来1人用なんだから…。」
「そら良いが身包み剥がして何する気だ?てめえなんか人間態のままでも充ぶっ…。」
「はいはいシャンプーしますよーお湯熱かったら言ってくださいねー。」
「あぁ?いきなり何しやがる!」
「何って、これがシャワーだよ。1日の汚れを落とすの。」

その後は何かと大変だった。シャンプーを付ければ何しやがる、シャンプーが目に入っては大騒ぎ、トリートメントを付ければまたあれをやるつもりかと暴れるし、その流れで洗顔は拒むわで、ボディーソープは自分でやってと任せて脱衣所に戻った時にはびしょ濡れのクタクタだった。…シャンプーハット買ってくれば良かったなあ…。
当の本人は現在風呂上がりのアイスを頬張りながら私にドライヤーをかけられご機嫌である。何でそう年も変わらない息子を持った気分になってるんだろうか…。唯一の救いは、ベクターが知らない事を学ぼうと素直に私の指示を聞いてくれる事ぐらいだ。

お風呂沸かせば良かった…。ゆったり湯船に浸かりたい。それでもパッと入って来てしまわねば。…私にはまだ学校の課題が残っている。幸い、明日は祝日で学校も無いけれど、ベクターがいる中でゆっくりと課題に向かえるとも思えない。重い気分と体に鞭を打ち、バスルームに再び向かった。




retern


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