まわり道 | ナノ
「はあっ、は、あ…っ…」
重たい身体を必死で動かし走る私。
数歩先でギラリと重く輝く剣先が振り下ろされた。
…やめて!その人を殺さないで!!


全身にぐっしょりと嫌な汗をかいている。寝起きだというのに整わない呼吸、べっとりとして気持ちの悪い体。また、あの夢で目が覚めた。今は何時だろうか、喉も渇いた。
起き上がり手探りでDゲイザーを手に取り起動ボタンを押す。暗闇に慣れていた目に突然の眩い光が攻撃的に刺さる。目を瞬かせつつ明りに慣らすと、画面には2:46の文字。
「まだ真夜中じゃん…。」
幾度目かによるセルフ安眠妨害にため息を流しつつ喉を潤すために冷蔵庫の取っ手を掴んだ。爽やかなものが飲みたい。レモン水風味の清涼飲料水があったはずだと中を確認する。
目的のものはあった。確かにあった。…一口分だけ。

こんなんじゃ足りないどころか余計に飲みたくなるよ…。
時間は遅いけど、すぐそこだしコンビニ行こう。人間三大欲求には敵わないのだ。汗を軽く拭って着替え家を出た。


コンビニまでの道があまりにも静かなので、ふと先程の夢を思い出す。ここのところあの悪夢に悩まされ続けている。段々頻度も上がってきているし、寝不足にもなるし迷惑している。
ただ不思議なのは同じ夢を見ている自覚はあるのに夢の内容を全く覚えていない事。

コンビニに着き目当ての飲料水と目に止まったデザートだけ購入しさっさと出ていく。深夜バイトの心のこもらないありがとうございましたに見送られ来た道を戻る。

夢の内容は覚えていないのに、逆に鮮明に覚えていることが二つだけある。大切な人の顔と、あと…


その時、突然曲がり角の先に紫色の渦が出現した。非現実的な出来事に、つい角の手間へ戻り体を隠す。顔を半分だけ出して様子を伺うともうそこには渦は無かった。
代わりに、少年の後ろ姿が見える。どう見ても向かい側から歩いてきたようには見えない。怖い、けれどここを通らないと…。

一呼吸おいて意を決し通りすがりを装って何でも無いように角を曲がり直すと、少年がこちらを向いた。声をかけられたわけでも、睨まれたわけでもない。それなのに私はその場で固まって動けなくなってしまった。
想像していたよりずっと優しい丸みのある目が訝しげに私を見る。それはそうだろう、見知らぬ相手に顔を見て驚かれたら誰だってそうなる。でも、私が固まってしまったのもどうかわかって欲しい。


「あの…?僕に何か…」
「ベクター…」
「…あ?」
「ベクター、さま…」


悪夢から残っていた、僅かな記憶の本人がそこにいたのだから。




retern


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -