カイトのくせに生意気だ! | ナノ
「なまえ、なあ、ちょっと良いか?」
「あれ?トーマス?何か用事?」
「いや…用事っつーか、大した用でも無い…くもねーような…とにかく、ちょっと来いって。」
「わ、ま、待ってどこいくの?」

ベクターと軽く打ち合わせを済ませたその日の放課後、なまえが一人になるのを見計らって声をかけた。なんでも無いふうを装った上で照れているような、余裕が無いような表情を作り、ぎこちなくなまえを見たり視線を外したりしながら少々強引に腕を引いて連れ出す。足がもつれないように慌てて小走りになる様は滑稽だったがぐっと笑いを押し込めた。
階段を幾つか上がって屋上の扉の真ん前で止まる。昼休みを過ぎると鍵をかけられてしまう屋上へは誰も来ない。絶好の場所だ。
だが肝心のコイツが何も察しちゃいない様子なのが恨まれる。この俺が此処まで念入りに演じてやってるってのに、全部無駄骨かよ?少しは乙女チックな思考備えやがれってんだ。まあ、支障はねーし構わねーけど。
いつまで経ってもキョトンとした阿保面のままで俺を見ているなまえに、意を決した強い眼差しで今一度向き直る。

「なまえ…。」
「な、何?」
「…好きだ。…俺と付き合って欲しい…!」
「…………へ?」
「今まで機会がなかったんだ。今日はカイトと居ないのを見かけて…言うなら今日しかねえと思った。」
「え、何…また何か企んでるんでしょ?」
「ッ!そんなんじゃ無えよ!」
「っ!」
「俺、本気だぜ…。でも、だからこそ…お前が俺よりカイトを選ぶってんなら、俺は…。」
「ま、待ってよ!何でそこでカイトが出てくるわけ!?」

かかった…カイト…魔法みてえな言葉だよなぁ?この名前を出すだけで、なまえはムキになって、マトモな判断なんか下せなくなっちまう。さあ、これで仕上げだ。

「カイトは関係無いって言いたいのか?なまえはそうだとしても、お前を目で追ってた俺からしたら、カイトがいる限りこの通り告白もできなかったぐらいなんだぜ?そんなベッタリな奴が関係無いのかよ?」
「カイトはっ、別に…ただの、幼馴染だし!」
「じゃあ、俺の事…考えてくれるよな?」
「…分かった。いいよ、私、トーマスと付き合ってみる。」
「…マジ?」
「マジ!」
「っなまえ!」
「わ、あ…!と、トーマス!」

感極まったように勢い良くなまえに抱き付く。と言っても、ぶっ倒れちゃ絵にならねえから、良い具合に角度を付けて勢いを演出しながらも気遣いを忘れない。そう、まるで舞台の上の恋人に演じるように。そして最上級の笑顔。完璧だ。
そして更に完璧なタイミングでカシャリと言うシャッター音。なまえも俺も慌てて音の方へ振り返る。そこに居るのはカメラを構えたー

「ベクター!!」
「げ、ベクター!」
「ヒャーハハハーァ!特ダネお写真ゲットォ!学園人気ナンバーワンのプリンスとかの有名ななまえチャンがカイトに内緒で逢引だァ!」
「やめろベクター!趣味悪過ぎんぞ!消せ!」
「そうだよ、最低!」
「お褒めの言葉をどうもォ!この俺がスンバラシイ一面記事を書いてやるよォ!ンーヒッヒッヒッヒィ!」
「待て、ベクター!悪いなまえ、俺がベクターを絶対捕まえる!」
「あっ、待ってよトーマ…す…。」
「帰ったら電話入れるな!」

背中にかかるなまえの言葉にそれだけ返してベクターの後を追う。奴の行き先は分かってる。そりゃ、打ち合わせをちゃんとしたからなあ?




「で、写真はどうだよ?」
「安心しろォ、上手ーく撮れてんぜぇ?」
「おい最高だなカメラマン!」
「テメーの名演技程じゃ無えぜ!」
「テメーにだけは言われたく無えわ。」
「光栄ですゥ!!」

全く、明日の号外が楽しみったら無えぜ!





きょ‐げん【虚言】
うそを言うこと。また、その言葉。きょごん。




retern


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