皇帝 | ナノ
デュエルを教えて欲しい、か。昨日の今日でそんな事を言い出すなまえを見る限り、忘れろと言った俺の言葉はイマイチ届いていないようだ。
デュエルができるようになったくらいでエンペラーに繋がるとは思わないが、それでもなまえにデュエルを教えるのは気の進む行為ではなかった。


それに委員長の言うように、なぜ教えを請う相手に選んだのが九十九遊馬なのか。"表"の俺の実力は、デュエリストでないなまえにもわかる程酷いものだ。
そんな俺に指導を頼む理由はなんだ?
なまえのデータを写す手を休めず考えたが全くわからない。それに、視界の端で俺をガン見してくるなまえも気になって集中できない。


「なまえちゃん、そんな見られてると集中できねーんだけど・・・。」
「えっ?あ、ごめんね、遊馬くんの目って綺麗な色だなーと思ってさ・・・。」
「はあ?」
「う、ううん、なんでもない!終ったら呼んで!」
慌てて自分の席へ向き直るなまえ。目の色・・・。確かに、俺の赤色の目はちょっと珍しいかもしれない。あっちに居る時はカラコンでもしておけば良かったな・・・。


幸いデータ量が少なかったため、右京先生がHRのために教室に入ってくる前に終らせる事ができた。斜め前のなまえの肩をつついて、こっそりデータメモリを返す。小鳥が横から肘で突いて睨んで来たけど、見なかったフリをする。宿題写したくらいでなんだっつーんだよ。





「遊馬くん!屋上いかない?お昼一緒に食べよー!」
午前の授業が終って先生が教室から出て行くと、なまえが俺の方を振り返って言った。
「いいぜ!Dパッド忘れんなよ!」
「はいせんせー!」


「あっ、ちょ、遊馬・・・!もう、遊馬ったらデレデレしちゃって!」
「いや、デレデレはしてねーと思うけど・・・。ん?委員長、何やってんだ片手伸ばして固まって・・・。」
「なまえさんが遊馬くんと・・・お昼・・・。これは!この等々力孝、委員長として彼を見張る義務があります!」
「名案だわ委員長!ホラ鉄男くんも行くわよ!」
「俺も!?待てよ俺昼飯・・・引っ張るな!引っ張るなって!何で俺までー!!」




「いいか?これがモンスター、こっちが魔法、そんでこれが罠カードな。カードは大きくわけるとこの3種類ある。」
「ふんふん、色が全部違うのね?」
「わかり易いだろ?モンスターカードでまず重要なのはこの星の数と、攻撃力と守備力。星が4つ以下のモンスターは、そのまま召喚できる。」
「それ以上のモンスターは?」
「それぞれの星に見合った数だけ、予めフィールドに居るモンスターをリリース・・・つまり生贄に捧げないと召喚できない。強いモンスターを出すにはそれだけ代償がいるって事だな。そういうのをアドバンス召喚って言うんだ。」
「モンスターをリリースして、アドバンス召喚。」
「そ!さっきの普通の召喚とこのアドバンス召喚は通常召喚っていう種類で、通常1ターンに1度しかできない事になってる。」
「じゃあ、1ターンに1体ずつしか召喚できないの?」
「それはまたちょっと難しくなるんだけど、通常召喚とは別に特殊召喚っていう何度でもできる召喚方法が・・・」




「おい、遊馬がちゃんとデュエルの説明をしてるぞ・・・。」
「しかも信じられない程にわかり易いです・・・。」
「ぶっつけ本番で『とにかくやってみるっきゃねー!かっとビングだー!』とか言って構えてると思ったのに・・・。」
「それにしても近くないですか・・・?」
「近いわね・・・。」
「何が?」

「二人の距離がよ!」
「二人の距離がですよ!」

「叫ぶなよ!気付かれちまうだろ!それにお前らのが近いって・・・。」
「これは隠れてるんだからしょうがないでしょ!」
「そうですよ!」





「あとはカード事の特性を触ってみたり戦ってみたりして感覚掴めたら一人でもデッキが組めるようになるぜ!」
「う〜ん、難しいのね・・・。」
「最初は俺も手伝うって!中心になるモンスターを決めると組みやすいぜ。どんなデッキを作りたいんだ・・・?」
「って言われても、まだどんなカードがあるのかよくわかんないし選びようがないなー。」
「それもそっか。じゃあ放課後カードショップ行ってみようぜ!店員さんとかにも色々聞けるし!」
「ほんと?行く行く!」


そんな事してやるつもりは無かった。元々なまえがデュエルに詳しくなるのには気が進まなかったし、勝手に置いて帰ると後から小鳥がうるせーし。
でも俺の説明を聞くなまえの顔が一生懸命で、つい力になってやりたいと思っちまう。なまえとデュエルするのも悪くないと、そう思ったんだ。

"表"では実力を発揮できずにわざと下手を打つ事にしているし、"裏"では目的のためとはいえあんな連中としか戦えない。
でも、なまえとなら。なまえとするデュエルなら、純粋に楽しめそうだと思った。
覚えたてのなまえを相手に、ちょっと意地悪なカードを発動させてやったらどんな反応を見せるだろう。
なまえは頭がいいから、きっと強くなる。そうなったら本気で・・・いや、なまえとエンペラーが会う事は二度とあってはいけない。彼女を巻き込むことになる。


自分のカードが買えるのが楽しみなんだろう、幸せそうな顔で弁当を頬張るなまえを見ていっそう強く思った。
こいつにあんな世界は似合わない。俺が絶対に守ってみせる。






「ってあああ何誘ってるんですか遊馬くん!なまえさんもそんな簡単に返事を・・・遊馬くんさえ宿題を忘れていなかったら、その役目は僕が・・・この僕が・・・!」
「委員長ってなまえの事大好きよね・・・。」
「そういう小鳥さんこそ、遊馬くんが好きなんじゃないですか?」
「何言ってるのよ!私は幼馴染として遊馬がなまえに変な事しないか見張って・・・!」
「おっ、おい、二人がこっちくる!戻るぞ!!」





「今そこに誰かいなかったか?」
「え?そう?」
「気のせいかなあ、っかしーな・・・。」
「それはそうとさ、」
「ん?」





「遊馬先生、これから宜しくお願いします!」



「おう、まかしとけ!」




retern
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