皇帝 | ナノ
遊馬くんが実力を隠してる・・・という事は、エンペラーさんと繋がりがあるどころか、遊馬くんがエンペラーさんだって事も有り得るわけで。
っていうかきっと二人は同一人物だと思う。だって、辻褄が合ってしまったもの。

気になってしまう赤の目、一緒に居る時の安心感。ナンバーズを集めるために、遊馬くんがエンペラーとして"裏"の世界に身を置いているとしたら・・・?こっそり部屋を抜け出した遊馬くん。向かった先はきっとあそこだ。


全部、全部辻褄が合ってしまう。私がずっと知りたかった、エンペラーさんが私を助けてくれた理由も・・・全部。
それでも信じたくない・・・だってそれって、私達にずっと嘘ついてたって事でしょ?
遊馬くんが大変なら、私いくらだって協力す・・・る・・・けど・・・。

『私と出会った時既に遊馬は十分な強さを持っていた。彼には常に隣に居た私が邪魔だったのだろう。』

そうだ・・・私はエンペラーさんの強さを見た。レベルが違う。足手まといなんだ。手伝う事によって邪魔をしてしまうんだ・・・。役に立ちたいなら関わらない事だって、言われたじゃない・・・。



帰り道はどうやって歩いて来たのかわからない。気がついたら部屋まで戻っていて、ベッドに座り放心していた。ちゃんと、屋根裏通って来たんだっけ・・・。
隣でアストラルが私に話しかけていた気もするけど右から左へ抜けていって頭に入らない。それくらいショックだった。
今は静かにして欲しい、一人になりたい。

私がベッドに倒れても空気を読まずああだこうだと言って来るアストラルがうざったくて、遊馬くんがやったのと同じように彼を閉じ込めようと箱へ手を伸ばした。ごめんね、でも、今の私は・・・本当に・・・。


ガタッ


箱に手が触れた所で上から物音が聞こえた。遊馬くんが、帰って来た。それから小さい衣擦れの音。きっと服を着替えてるんだ。今にも問いつめようと飛び出しそうになっていた体を引き止めた。き、着替え中はまずいよね・・・!

「遊馬くん、今平気?」
部屋が静かになったのを見計らって、上の部屋へ声をかける。
「うわっ、なまえちゃん!?まだ起きてたのかよー、びっくりしたぁ!」
大丈夫だぜ、といって上から降りて来る遊馬くん。これも、演技なんだろうか。


「遊馬くん、アストラル、見えるよね。・・・これ、返すね。」
「・・・え?あーっ、無くしたと思ってたぜこの鍵!なまえちゃんが見つけてくれたのか!?サンキュー!大事なもんだったから、どうしようかと思ってたぜ!」
遊馬くんはおかしいくらいアストラルを見ようとしなかった。・・・というか、居ないのと同じように振る舞っているみたいだった。でも、私の発した彼の名前には肯定も否定もしなかった。

「・・・アストラルから色々聞いたの。それでね、遊馬くんは・・・エンペラーさん、なの?」
「は?・・・なまえちゃん、何言ってんだ?エンペラーさんて誰だよ?」
「今まで、出かけてたよね。・・・何処行ってたの?」
「何言ってんだよなまえちゃん、俺はずっと部屋に・・・」
「居なかったじゃない!どうして嘘つくの?!」
「どうしたんだよいきなり!なまえちゃん、落ち着いてくれよ・・・!」
「遊馬くんが本当の事を話してくれてたらそうしてたかもね!」

ドアノブを乱暴に回し、足音が経つのも気にせず下に降りる。玄関まで走って、外へ飛び出した。遊馬くんが後ろを追って来ている。

「待っ・・・なまえちゃん、何処行くんだよ!」

「来ないで!遊馬くんなんか・・・大っ嫌い!!!」




その時の私は、冷静さなんて欠片も無くて、ただ信頼していた遊馬くんとエンペラーさんに一遍に裏切られたような感覚に胸が張り裂けそうで。辛くて、辛くて、遊馬くんと同じ所に居たくなくて考えも無く走り続けた。
ついさっき一人で出歩いて、ろくな事にならなかったのを覚えていたはずなのに。




方程式をねじ曲げる




retern
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