皇帝 | ナノ
皇帝の間へ着くとそこには既にカイトがいて、ソファーに腕と足を組み眉間にシワを寄せ全身で苛立を表現したように座っていた。


「俺の到着もまだなのに勝手に上がり込んだのか?」
「なら施錠でもしておけ。取られて困るものなどないんだろうが。」
「まあな。で、今度は何の用だ?」

いかにも用がありますって雰囲気のカイトにそう聞いてやれば、案の定いつもよりギラつかせた目で俺の方へと歩いて来た。フォトンチェンジもしてないってのに今にも左目が赤くなりそうだぜ。そんな視線で付き添って来た支配人を見やるもんだから、奴はそそくさとその場を後にせざるを得なかった。



「エンペラー、貴様あの女を居候させたのはどういう事だ?」
「おいおいカイト、つい数時間前の話だぜ。お前はなまえのストーカーか?」
「馬鹿を言え、情報を集めろと言ったのはお前だろ。・・・あの女は引っ越す予定だった。何故引き止めた。」
「俺の知らない所で危険なめに遭うかもしれないと思ったら気が気じゃなくてな。」
「過保護に拍車がかかったな。もしバレたらどうなる?」
「それはなまえに限った事じゃなく家の全員に対して言える事だろ。確率は変わらない。それとも、抜け出すときにオービタルでも貸し出してくれるか?」
「寝言は寝て言え。」

「お前こそ、皇帝の存在に対して過保護だな。」
「いつかは貴様の元に集ったナンバーズを全て頂く必要があるからな。貴様の行動媒介である皇帝の地位が無くなっては効率が下がる。」
「そういう事は一度でも俺に勝ってから言え。」


事実、カイトは俺に勝てた試しがないのだから、これを言われては大人しく引き下がるしかないだろう。なまえや皇帝の話となると口喧しくなるカイトを黙らせるにはこれが一番だ。
案の定カイトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ「せいぜいヘマはするなよ」と言い残し去って行った。

あの様子だとマーケットには参加しなさそうだから、今日のカードもハズレなんだろうな。
皇帝である俺でさえ事前情報は「物品」か「カード」かまでしか知らされないというのに、あいつはそのカードが何であるかまでを把握して確実にナンバーズだけを狙ってマーケットに参加してくる。本当にあいつの情報網はどうなってるんだ。



結局賞品を目にしてから今日は途中で帰った。なんだかんだ言ってなまえの荷物を運んだりなんだりと身体的にも疲れが溜まっていたからな。
帰りももちろん窓から屋根裏に入る。寝間着に着替えてハンモックへ上がろうと手をかけてから、ふとなまえの様子が気になった。

少し様子を見るだけだから。こんな事、なまえが嫌がるに決まっているのに理性を動かす事ができずにそっと階段を下りる。扉がないのが悪いんだ、扉が。
部屋は当たり前だが真っ暗だ。それでも、住み慣れた自分の部屋な事に加え今は目が暗闇に慣れきっていた。段ボールを避けつつベッドの前まで歩いて行くと、心地良さそうに眠るなまえの寝顔が目に入った。

なまえはこんな風に眠るのか。どうしようもなく愛おしい気持ちが沸き上がって来るのと同時に、抑えきれない衝動も込み上げてくる。
静寂しか無かった部屋に、ごくりと喉の音が響いた。他の音が無いせいでやけに大きい音だったように感じた。だがそんな事はどうだって良かった。


なまえが、寝ている。俺の部屋で。俺のベッドで。

緊張と興奮で、俺の目は見開かれているだろう。ゆらりと動く体はもう自分には止められない。後悔など、屋根裏に戻ってから頭を抱えてたっぷりすればいい。




俺にとってもお前にとっても初めての




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