皇帝 | ナノ
なまえがうちに越して来たのは次の月になる直前だった。両親の車に必需品や服を積み、挨拶も兼ねて家族全員でやってきた。"裏"では俺やカイトを除けば周りは大人だらけだが、そういった奴らとは違う。なまえの両親だからこその緊張が俺にはあった。一方的に好意を抱いているなまえに、"表"の顔を利用してこういった誘いを持ちかけたという背徳感もあったかもしれない。


優しそうな母親と、気さくな父親。なまえの明るい笑顔は、母親似と言った所か。元気でねと涙目になった母親を見て、俺も心の中で母を思い出す。すると突然肩を叩かれ我にかえる。振り向けばなまえの父が立っていてなまえをよろしく頼むと言われてしまった。
友として言われた言葉だとは分かっていたが、嬉しさと気恥ずかしさで頭が参りそうだった。なんとか返事を返した。
当たり前だ、俺はなまえを守るために家へ呼んだんだからな。

車に積まれたなまえの荷物を運び、挨拶を済ませてなまえの両親は車を走らせ去って行った。昨日のうちに業者に荷物を頼みこれから本人達も移動をするようだ。



「本当に、なまえちゃん家に住むんだなー・・・。」
「なんだかまだ実感湧かないね。」
「うん。」
「遊馬くん、これからお世話になります。」
「いいのよなまえちゃん、遊馬どうせお世話なんかできないんだから。もっと気楽で。」
「そうじゃそうじゃ。」
「ねっ、姉ちゃん!婆ちゃんまで!!ひっでえよぉ!」

いつの間に会話を聞いていたのか、姉ちゃんと婆ちゃんが割り込む。それらしくオーバーリアクションしてみせれば、なまえは笑って「じゃあ、よろしくね。」と言った。



屋根裏は完全に俺の部屋になり、すぐ下にあった俺の部屋をなまえに空け渡した。服は全部屋根裏に持ち出して、元々屋根裏にあったタンスを掃除してそこに投げ込んだ。机や椅子なんてものはここに持ち込めるわけがないから、なまえ用にしてこれも中身だけ持って来た。俺の私物は元々必要最低限で、俺が移動するのにそんなに時間はかからなかった。

そんな元俺の部屋になまえがいる。今は夕飯も済み荷物の紐解きも程々に、疲れたのか元俺のベッドで眠っているようだ。階下へと続く穴からちらとなまえの寝顔を覗き見見てから、音を立てないように着替えを始める。
そう、今日はブラックマーケットだ。


窓からこっそりと家を出て、何事も無かったようにいつも通りの対応でマーケットの車に乗り込み会場へと向かった。




今日から




retern
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -