皇帝 | ナノ
「ねーちゃん、ねーちゃん!なまえちゃんウチに泊まってもいい?」
「はぁ?なまえちゃんって、ちゃんて言うくらいだから女の子じゃないの?」
「そーだけど。」
「そーだけどって、アンタねえ!・・・で、いつ?」
「えーっと、ちょっと待って。・・・なまえちゃん、いつから?」
「待てコラ遊馬。いつからって、何日かいるの?」
「うーん、わかんねーけど、何年か。」
「はぁ!?ちょっ、どういう事よちゃんと説明しなさい!」
「なんだっけ?なまえちゃんのとーちゃんが転勤するとかで、なまえちゃんも転校しなきゃいけないんだけど、嫌だから家に泊まればいいかなーって。」
「嫌だからって・・・ともかく、電話口で決められるような問題でもないでしょ!ばあちゃんには話しておくから、今日詳しい話聞かせにその子連れて来なさい!話はそれから!」

それだけ伝えられて一方的に電話は切られた。まあ、反応としてはこんなもんか。なまえを居候させる事自体にはとりあえず反論も無かったわけだから大丈夫だろう。


「切れちゃった・・・。」
「ど、どうだった・・・?」
「多分へーきだと思うけど・・・詳しい話が聞きたいから、今日なまえちゃん連れて来いって言ってた。」
「ほ、ほんと・・・!?じゃあ今日遊馬くん家お邪魔する!」

途端に明るくなったなまえの顔を見ただけでこんなにも安堵する自分が居る。
男ってのはつくづく単純だ。女に惚れると更に馬鹿になる。自分がこんな有様になるとは思っても見なかったがなまえのためならそれもいいと思うあたり救いようが無いな。



そして放課後、授業が終るなりデュエルもせず俺達は学校を出た。家までの帰り道をなまえと歩くのは新鮮だ。これから毎日こうして行けるかと思うと二人への説得にも気合いが入るというものだ。

「ここがウチだぜ!」
「へえ〜遊馬くんちおっきいねえ〜!」
「3人で住むにはな!ねーちゃーん、ばーちゃん、ただいまー!」
「お邪魔しますー。」

「お帰り遊馬。・・・その子が?」
「そう、なまえちゃん!」
「はじめまして・・・!」
「どうもー、遊馬の姉の明里です!さ、上がってー。」


緊張してるのかいつもより少し固くなっているなまえをリビングに通して椅子を勧める。家になまえが居るって言うのも不思議な気分だ。
「じゃー婆ちゃん呼んで来るから。遊馬お茶入れといて。」
「おう!」


3人の紹介を済ませ、一通りなまえの話を聞いた。俺も学校では小鳥の説明を聞いただけだったから、詳細を聞いたのは初めてだ。
どうやらなまえの父親の転勤先が親の実家に近いだとかで、家族全員でそっちに住む事になったらしい。何年そっちに居るかも、こっちに戻って来るかも分からないが、高校になれば一人暮らしができるだろうし長くて中学卒業までは居候になるかもしれないという内容だった。
流石に期間が長いのでなまえも気が引けたのか、最後の方になるにつれ声がか細くなっていった。


「まぁた遊馬は・・・考え無しに大丈夫だなんて言ったんでしょう。」
「あの、やっぱり迷惑ですよね・・・すいませんでした・・・!」
「これ明里、紛らわしい言い方はおやめ。」
「えっ、じゃあいいの!?姉ちゃん!」
「えっ・・・?」
「ちゃんとご両親にお願いするのよ?ご両親次第よ。うちは良いわよって話。婆ちゃんも構わないでしょ?」
「ほっほ、孫が増えたみたいじゃ。」

「ホントですか!?ありがとうございます!!」
「やったななまえちゃん!」
「うん、遊馬くんもありがとう!お父さんとお母さんに話してみる!」


どうせならこっち側も全員揃ってる今電話してしまおうという話になり、今は姉ちゃんとなまえの母親が話をしている。昨晩転勤の話を初めて聞いたときになまえは相当嫌がったようで電話口のなまえの母親は困った顔で笑っていた。
電話をしてる姉ちゃんを緊張した面持ちでずっと見守っているなまえの様子がたまらなく可愛くて頬が緩む。


「さて、話はついたわよ。多分大丈夫だろうけど、今晩旦那さんと話し合ってくれるって。」
「わああ・・・!」
「ほらな!大丈夫だっただろ!」
「何が大丈夫よ馬鹿遊馬。じゃあなまえちゃんは家に帰って改めてご家族と話をして、それから荷造りをするのよ。遊馬はアンタの使ってない部屋片付ける!いいわね?」
「はい!ありがとうございます!」
「片付けかー・・・わかったよ姉ちゃん・・・。」



なまえを途中まで送って帰って来ると、やたらニヤニヤした姉ちゃんと婆ちゃんに色々聞かれそうになったが、そこは九十九遊馬のもうひとつの便利な所を十分に発揮して「何が?」という態度を崩さなかった。
あきれ顔の二人に首を傾げてみせ、部屋に向かって片付けを始める。

何時間ぐらい進めていただろうか、窓の外は真っ暗な事に気が付いて顔を上げた途端にメールの着信音がした。




件名はお前の笑顔そのもの




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