皇帝 | ナノ

「えっ・・・お父さんが転勤・・・?」


いつものように遅刻ギリギリに教室に着くと、驚いたような小鳥の声と沈んだなまえの顔が一番に目に入った。

「おはよー!どうしたんだよ?」
「あ、遊馬。」
「それがですね、なまえさんのお父様が・・・「ゆうまくん!!」って、ちょ、なまえさん!?」
「わっ、おいなまえちゃん・・・!」

俺を見るなり突然飛びついてきたなまえ。なんとか受け止めはしたが、ハッキリ言って平常心なんて保てている気がしない。この間二人の時でさえヤバかったんだ。こんなに人が居る所でもしニヤけた顔でも晒してみろ、俺は一瞬で変態確定だ。
そんなやましい思考を巡らせたのもつかの間、なまえの顔が今にも泣きそうな事に気付いた。下心なんてひっこんで、俺は困ったようになまえの背中を優しく叩いた。


「なまえちゃんどうしたんだ?わけを話してくれなきゃわかんないぜ?」
「遊馬くん・・・何をしてるんですか!なまえさんから今すぐ離れて下さい!」
「あのなあ、委員長も見ただろ!なまえちゃんから来たの!んな事より、誰か説明してくんねえ?」
「なまえのお父さんの転勤が決まったんですって。それで、なまえも転校するらしいのよ。」
「なっ・・・嘘だろ?」
使い物にならない委員長のかわりに小鳥が説明してくれた。何か声がトゲトゲしい気がするがそんな事はどうだっていい。なまえが・・・転校するだと?

「本当なのか?なまえちゃん・・・。」
問いかけてみれば、俺にしがみついたままなまえが小さく頷いた。

確かに、遠い地で暮らすようになれば、マーケット関係の奴らから及ぶ危険もぐっと下がるだろう。だが、もし、万が一。俺の知らない所でなまえが危ないめにあうなんて事があれば・・・。
全身に寒気が走った。こんな感覚、デュエルですら感じた事は無い。なまえの存在が俺の中で日に日に肥大して行くのは分かっていたが、こんなにも大切になっていたなんてな・・・。これじゃあ確かになまえを人質にでもされた日には皇帝の座なんて投出しそうだ。
カイトが聞けば笑い事じゃないと怒鳴ってきそうな事を考えつつ、腕の中のなまえを見やる。今は少し落ち着いて小さく鼻を鳴らしている。九十九遊馬の胸が落ち着くというのは本当らしいな。全くこんな時でも可愛いやつだ。



「なあ、なまえちゃん。じゃあうちに泊まるってのはどうだ?」
九十九遊馬だからこそできる発言。なまえの事となると"表"の方が何かと都合がいい。こういう性格で通しておいて良かったぜ本当に。
「えっ・・・?」
「はぁ!?」
「遊馬くん!?君って人は!何を考えてるんですか!?いいですか、なまえさんは女性!君は男!デリカシーが無いにも程があります!」

ほら見ろ、当然のように委員長が突っかかって来やがる。こいつの反論は半分以上が個人的な嫉妬だろうがな。
「でもうち、俺以外はねーちゃんとばーちゃんだけだし。ねーちゃん黒帯だぜ!」
「いや、黒帯は関係ないわよ・・・。」
「それに俺いっつも屋根裏のハンモックで寝てるから俺のベット余ってんだー!」
「で、でも遊馬くん・・・私、何年いさせて貰うかわかんないよ・・・?」
「いーよ、別に!ねーちゃんに聞いてみようぜ!」
「だって・・・!」
「なまえちゃんは嫌?転校したい?」
「そんなわけない!し・・・嫌じゃない・・・けど・・・」

いきなりの事だから仕方ないが、中々うんと言わないなまえに痺れを切らして聞いてみた。好かれている部類に九十九遊馬が入っているのはわかっていたとはいえ、嫌じゃないとなまえの口から聞けて安心した。

「だったら一緒に居られる方法試してみようぜ!俺だってなまえちゃんと離れんの嫌だし!」
「遊馬くん・・・。」
「こないだ約束したろ!なまえちゃんが頼ってくれてんのに、何もできねーなんてかっこ悪いからな!」



「あの二人、いつからあんな仲良くなったの・・・?」
「仲は前から良かっただろ?それに遊馬がおせっかいなのはいつもの事じゃねーか。」
「違いますよ鉄男くん。トドのつまり、なまえさんが遊馬くんを特別頼っているのがおかしいんです!こういう事はですね、委員長であるこのボクが!」
「転校とかは委員長がどーって問題でもねーって・・・。」




庇護欲を建前に




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