皇帝 | ナノ
最後だと言ってなまえを返した次の日から、なまえは少し大人しくなったように思う。自分では気にしないように勤めているつもりらしいが、傍目には落胆してるのが一目瞭然だ。
俺は九十九遊馬としてなまえに会っているから悪い気もしてくるが、それでも俺のことでこんなに落胆しているなまえを見ると変な期待を抱いてしまう。


なんで俺がなまえに優しいかなんて、俺がお前に惚れてるから以外ありえねえだろ。
自分からもう会わないと突き放したくせにお前が好きだなんて言えばなまえを戸惑わせる事になる。それに、俺みたいなのに惚れられて良い事なんか一つも無い。
だから、早く皇帝の事なんか忘れるんだ。
安心しろ、"表"の時間のうちは九十九遊馬がお前を一人になんてさせやしないから。




「いってきまーす!」
「あれ?遊馬今日は珍しく早いじゃない。」
「まあね!じゃあ明里姉ちゃんいってきまーす!」
「いってらっしゃーい」

時刻は7時12分。余裕すぎる時間だ。今から行ってもきっと教室には殆ど誰もいないだろう。なまえを除いては。
なまえは、モノレールのラッシュ時間を避けるために早めに登校し、7時過ぎには学校に着いていると聞いた事がある。一人きりの教室で、他の生徒が来るまで一体どうしているんだろうか。

教室の手前まで来ると案の定なまえは一人でいた。廊下側はガラス張りだから、机に突っ伏しているのがよく見える。


「おはよー、なまえちゃん。」
「!・・・遊馬くん?」
「おはよ!」
「おはよう・・・早いね?」
「ああ、寝ぼけて時間一時間間違えてさー!遅刻だーって走って来たら全然ちげーの!」
「そっか・・・。」
「・・・。」
「・・・。」


これじゃあ他の何を話してもこの調子だな。
自分の席に鞄を置き、斜め前のなまえの所まで行って机の端に両腕を組んで顎を乗せた。そのままなまえの顔を下から覗き込む。

「なまえちゃんさ、最近元気ないよな。」
「えっ、どうして?元気だよ?」
「デュエルもあんまりしなくなったし。」
「・・・それは・・・。」
「デュエル飽きた?」
「そういうわけじゃ・・・。」

困ったように視線を彷徨わせて、やがて観念したようにもう一度俺を見た。きっと、俺の目を。


「遊馬くんならいっか・・・。前にね、会いたい人がいるのって話したよね?」
「デュエル強いってやつ?」
「うん。この間その人に会えたの。」
「へー!良かったじゃんか!」
「うん、でも、結局私がお礼をしようとうろちょろしてた事も、あの人の邪魔にしかなってなかったみたい。お礼をしたいなら、もう探すなって言われちゃった。」

「・・・なんだよそれ、せっかくなまえちゃんがこんなに・・・」
「いいの、私もホントは分かってたんだ。あの人に私がしてあげられる事なんて何も無いって。」


そんな事はないと伝えられたらどんなに良かっただろうか。俺がなまえと過ごす時間にどんなに癒されてるか伝えられたらこんな思いをさせずに済むのに。
自虐のように話すなまえの表情は、見ているこっちが辛くなる程悲しそうで。今更過去の自分にもっと言い方は無かったのかと詰め寄りたくなった。


「私ね、きっと何処かで自惚れてたんだ。あの人があまりに優しいから。赤の他人のはずなのに、まるで世界で一番大切な人を相手にするように私に接してくれたから。」
「・・・。」
「でも私の勘違いだった。恥ずかしいなあ。何を期待してたんだろうね、向こうは割り切って守っていてくれたのに。」

「俺がさ・・・」
「?」
「俺、強くなるよ。そんで、そいつより強くなって、もうお前なんかなまえちゃんにいらねーからって、言ってやるよ!」
「遊馬くん・・・。」
「だから・・・」

だからさ・・・




そんなヤツの事なんか忘れちまおーぜ




retern
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