皇帝 | ナノ
なんでもいいから彼の役に立ちたくて、少しでも彼にお返しがしたくて。彼の喜ぶ事なんて何一つとして思いつかない私は恩返しをさせてもらう事すら縋るように彼に向き直った。
だって、まだ私は彼の顔も名前も知らない。彼が喜ぶ事が思い当たるまでのヒントすら持ち合せてないんだから。


そんな私の問いに、エンペラーさんはいとも簡単に返事をくれた。
まるで、今日私と会った時から・・・もしかするとそれより前から、こうなる事を分かっていたかのようにスムーズにその返答は返って来た。


「一つ頼みがある。」
「・・・!はい!」

「これからなまえがする質問に答えられない事を許してくれ。」


「そんな!そんなお願いって「なんでも聞いてくれるんだろ?知らない事が・・・お前に知られない事が、幸せだって事もある。」
そんなお願い、ずるい。私が今ここにいる意味がほとんど無くなってしまった。それに、私のためじゃなく自分のためのように言い直して私が反論できないようにしてるのも、ずるい。
「聞いて、くれるか?」
そんな優しい声で尋ねてくるのも、ずるい。
私は腑に落ちない表情のまま、頷くしかなかった。


「でも、一つだけ・・・どうしても聞きたい事が・・・」
「お前もしつこいな。」
「カイト、お前は黙ってろ。」
「・・・あんまり甘やかして自分の首を絞めるなよ。」
「・・・。続けろ、なまえ。なんだ?」
「私を、こんなにも気にかけてくれる理由を、優しくしてくれる理由を聞きたくて・・・。」
「・・・・・・。」

エンペラーさんが無表情のまま固まる。表情は無いので困惑なのか、動揺なのか、呆れなのか、はたまた悩んでいるだけなのかは分からない。仮面をとっても表情から読み取れる事は無いのかもしれないけど、聞くなと言われた手前、どうしようもなく彼の仮面の存在が恨めしかった。
カイトさんはわかり易い程にヤレヤレという感じで肩をすくめる。この人、会った時から呆れた顔しか見てない気がする。


「無関係の一般人を助けるために手を差し伸べたのは俺だ。そのせいでお前に危険が及ぶなら、そこからも守りきってはじめてお前を助けられた事になる。人質にされても面倒だからな。それと、お前が俺を優しいと感じるのは、単に"表"の人間への力加減がわからないだけだ。」

少しの間があった後に、一気に答えを並べられてしまった。
私は、とんだ自惚れの勘違いをしていたんだろうか。そしてやっぱり、彼の思い描いた事の邪魔しかできていなかったんだろう。だからこうやって無理矢理にでも何も聞けなくなるように誘導したんだ。
言葉にして聞いて、やっと分かるなんて。カイトさんが溜め息をつくのもしょうがないよね。



「わかり、ました・・・。その答えだけでも聞けて良かったです。・・・もう、エンペラーさんの事は・・・・・・探さないって、約束、します。」
「ああ。今度こそ、これで最後だ。・・・それと、お前に渡しておくものがある。」
「私に・・・?」
そういってエンペラーさんがズボンのポケットを漁り取り出したのは、薄めの小箱だった。
「これは・・・?」
「もし今後、誰の助けも来ない所で追いつめられた場合は、相手にデュエルを申し込め。それから、箱を開けろ。いいな。」
「でっ、でも・・・!私デュエル弱くて・・・!」
「時間稼ぎにはなる。その間に、必ず俺が行く。」
ああもう、違うんだって言い聞かさないと、エンペラーさんの言葉はやっぱり勘違いしてしまいそうになる。無意識でこんなに格好良いなんてタチが悪い。


「それじゃあ目隠しもこれで最後だ。我慢してくれ。」
「・・・・・・。」
「なまえ?」
「・・・っはい・・・。」
目が覆われる直前までエンペラーさんを見つめていた。探さないって約束はしたけど、忘れろって事じゃない。思い続ける事は否定されてない。彼を目に焼き付けながら視界に闇が訪れるのを待った。
その後彼と別れるまで、彼の声を、掌を、全神経を集中させて感じ取った。
この感覚が、せめて夢で蘇りますように。






「あの箱は何が入っていたんだ?」
「護身用みたいなもんだ。」
「まさか・・・か?」
「そう思うか?」
「いや、それは無いだろうな。」
「フン・・・。」




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