皇帝 | ナノ
「エンペラーの厚意を無駄にする気か?失せろといっているんだ。」
苛立った視線と先程より荒い口調で私を引き下がらせようとするカイトさん。それでもやっぱり諦めきれない私はさぞわからずやに映った事だろう。



「あれ程忘れろと言ったのに、そんなに俺に会いたかったのか?」
膠着状態の私とカイトさんの沈黙を次に破ったのはどちらでもなく、もう一度聞きたかったあの声だった。眉間のシワを深くして、カイトさんは呆れたような長い溜め息を吐いた。
彼だって私のためを思って言ってくれていたのだから、決して悪い人じゃない。寧ろ私が無理を言っていたんだし、彼の溜め息は最もだった。心の中でごめんなさいと謝って、エンペラーさんの方へ向き直る。

かち合う、赤。
ずっと探してた。
初めて会った時から数日しか経っていないのに、長い間会っていなかったかのような、でも不思議と見慣れているような、赤色の目が。

やっと。


「えん・・・「あまり大声で呼ぶな、まだ明るい。その男の事もあるし場所を移すぞ。カイト、いいな?」
「・・・ああ。」
「あのっ・・・。」
「分ってる、お前を置いて行くような事はしないから、静かにしてついて来い。」
「あ、はい・・・!」


幸い人に出くわす事無く車に乗り込む事ができた。窓にしっかりスモークのかかった車が2台。前の車にカイトさんと捕まった男が乗り、私とエンペラーさんは後ろの車に乗った。
伝えたい事や聞きたい事はハッキリしていた筈なのに、変に緊張してしまって言葉が出ない。エンペラーさんも何も喋らずただ前の車を見ていた。


「そろそろ近くなる。また目隠しをさせてもらうが、いいな?」
「へ!?あ、は、ハイ!」
不意に口を開かれた事に驚いておかしな声で返事をしてしまった。そんな私に喉をクツクツと鳴らして笑うエンペラーさん。
「クッ・・・何をそんなに緊張しているんだ?ホラ、後ろを向け。」
「あっ、す、すいません・・・!」
なんだか一気に恥ずかしくなって促されるまま慌てて後ろを向いた。
わ、笑われた・・・というか、笑ったりするんだ・・・。
相変わらず顔の大半は仮面で覆われていたけれど、それでも彼の笑顔は格好良く見えて。一度意識してしまうと目隠しをしてくれている彼の指にさえ反応して、顔が熱くなった。



「顔、赤いぜ?」
「ひゃ・・・!」
目隠しを結び終わったついでに囁かれて思わずビクリと体が跳ねる。言葉の内容に加え囁かれたのが耳元だったのとで、私の体温を更に上昇させるのには十分だ。
「えっ、えん・・・み、耳ッ・・・!」
「ああ悪い、つい、な。」
すぐ隣でクツクツと笑う声が聞こえる。視覚を奪われた事でいつもより聴覚が研ぎすまされているというのになんて事をしてくれるの・・・!
たまらず囁かれた方の耳を両手で押さえてうずくまる。

「・・・おい?」
「・・・ッ!なんですか!」
「悪かったって、そう怒るな。・・・会場に付いたらちゃんとお前の話を聞いてやるから。」
「・・・私、なまえって言います。お前じゃありません。」
「なまえ」
「!」

なんだか悔しくてつんけんしながら名前を名乗ると、とっても優しい声で呼び返された。あまりにも声色が優しいものだから、さっきまでの緊張感や恥ずかしさ、変な意地も一瞬で吹き飛んで顔をあげてしまった。
彼に名前を呼ばれるのは初めてなのに、もう何度も呼ばれた事があるかのような耳に馴染んだ響き。
私はこの声を知っている・・・耳障りのいい、ちょっと掠れた・・・




私の知ってる優しい声




retern
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