皇帝 | ナノ
遊馬くんにデュエルを習ってから数日経った。
あれからクラスの皆にも相手してもらったり、カードを分けてもらったり、アドバイス貰ったりしてそれなりにデュエルに慣れて来た。

私が強くなると、遊馬くんは自分の事のように喜んでくれた。最初のきっかけはエンペラーさんだけど、自分に教えてくれた人が私のことで喜んでくれるのは凄く嬉しい。
もっともっと褒めて欲しい。知らない間に強くなっていたらびっくりするかな。
そう思って皆に内緒で新しいカードを仕入れようと一人であのカードショップに向かった。




あんな事があったばかりなのに、一人で行動したのがいけなかったのかもしれない。
店内に入った時に、既にいた別のお客さんに顔を凝視された。何事かと思ったけど、とりあえずカードを選ぶためににショーケースを見て回る。
その間も、背中に違和感が絶えなかった。見られていたんだと思う。
流石に気持ち悪くなって、カード選びもそこそこに何も買わず店を出た。


怖くて小走りに家へ急いでいたはずなのに、どんな道を使ったのか、いきなり目の前にカードショップにいた男が現れた。


「ひっ・・・!」
「なあなあお嬢ちゃん、アンタエンペラーに貰われてった子だろ?」
「・・・そんな人、知りません・・・!人違いです!」
「何言ってるんだ、俺もあの場所にいたんだよ。間違いなくアンタだ。・・・ちょっと来てもらうぜ!」
凄い力で腕を掴まれた。きもちわるいきもちわるいこわいきもちわるい。酷い不快感が全身を襲う。

「やめっ・・・」
「ぎゃあっ!」
突然男が呻き声を上げたかと思ったら私を掴んでいた手がぱっと離れた。
恐怖で瞑ってしまった目を恐る恐る開くと、見知らぬ男の子が男の腕を掴んでいた。

「情報を得る前に現場に出くわすとは思わなかったな。」
「お前は・・・カイト・・・!」
カイトと呼ばれた少年は男の腕を捻り上げたまま、男は無視して私に向き直った。
「あ、あの・・・。」
「お前がエンペラーの・・・。もう行け、コイツには二度とお前を追えないようにしておく。」

「あなた、エンペラーさんを知っているんですか・・・?」
「そうだな。」
肯定した彼に、もうここしかないと思った。
「お願いです!エンペラーさんに会わせて下さい・・・!」
「会ってどうする?奴のとばっちりでお前はこうして狙われているんだぞ。」
「とばっちり・・・?」
「お前を人質にでもすればエンペラーに勝てるとでも思ってるようだ。そうだろ?」
「うぐあっ・・・!」
穢らわしいとでも言うような目で男を見下し掴んだ腕の力を強めるカイトさん。男はたまらず呻く。

「お前をエンペラーに会わせる事はできない。エンペラーはお前と接触する事を望んでいない。」
「そんな・・・!」
「更に今ここで俺と関わった事によってお前の危険度は上がった。これ以上俺と居る事も好ましい事ではない。」

あの時エンペラーさんが言った関わるなって、忘れろって・・・こういう事だったの・・・?別れた後すら私の事を気にかけてくれる・・・本当に優しい人。
彼の優しさを受ければ受ける程、疑問は深まって行く。
彼にとって私はそこまで気にかける価値があるの・・・?


尚も早く立ち去れと促してくるカイトさん。
エンペラーさんの優しさを無駄にしたいわけじゃないけれど、私の中で肥大化して行く彼の存在を諦める事もできない。
何より、もう一度彼に会いたくて、私はそこを動く事ができないでいた。




葛藤




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テーマ「人外ファンタジー」
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