皇帝 | ナノ
夜、寝静まったフリをしてから、こっそり家を抜け出す。
少し歩いた所に停まっている車まで行くと、運転席の窓が開いた。


「よォ。」
「お待ちしておりました、エンペラー。」

後部座席に乗り込んで、動き出した車のスモークがかかった窓から外を眺める。
ここから会場までは少しある。いつもは仮眠を取るがそんな気にはなれなかった。
ぼーっとしていると、数時間前に別れたなまえの顔がチラつく。

ただのクラスメイトにすぎなかった。最初は違法に連れ去られた知人を助けたかっただけだった。
なのに、震えて怯えるなまえがあまりにも小さく、か弱く見えて。
俺が守ってやらなきゃと思った。
実際あの場面では俺が行動を起こさなければ、なまえも言っていた通り今日学校で会う事などできなかっただろう。あの場になまえの味方は居なかった。違法と分っていても、それを悪として正そうとする参加者など居ない。
それが分っていたから、尚更守りたいと強く思った。


ブラックマーケットが終わって皇帝の間に帰ってくると、なまえは部屋に繋がれていた。俺が近づいて行くだけで怯えた目を向けられたのが苦しかった。早く安心させてやりたい。俺はすぐに支配人から奪い取った鍵で手枷を外してやった。
長い事自由を奪われていた手首は薄ら赤くなっていて痛々しい。
弱り切ったなまえを間近で見て、手で触れてその脆さを実感すると頭がカッとなりいつの間にかなまえを抱き寄せていた。
幸いその行動に対してなまえは怯える事は無かったが、ハッとなりすぐに体を離した。あまり長い事俺と接触しない方が良い、そう判断して車を用意させすぐに送らせた。目隠しをしたなまえを車まで誘導する時に繋いだ手も小さかった。
最後に言われたありがとうが、何故かチクリと刺さった。



なまえは俺に近づきたいと言った。でもそれを許すわけにはいかない。
なまえと過ごしたいと思っても、それはなまえを危険に晒す事になる。彼女を守るという誓いに反する行為だ。
だから、最後にもう一度だけ。お礼を言わせてなまえの気が済むというのなら。

それを許したのは俺自身、もう一度素の俺としてなまえと会いたかったかもしれない。が、それを肯定する事は俺自身が誓いに反した行動を肯定する事だ。都合良く気付かない振りをして、車を降り皇帝の間へ向かった。


なまえが好きだ。そんな事はとっくに分っていた。こんなにも守りたいと、大事にしたいと思うのはそういう事だ。きっかけはただの庇護欲だが、今日一緒に過ごして抱いた感情は愛だった。
なまえを可愛いと思った、なまえと過ごす時間は楽しかった。演技ではなく、本当の俺としてなまえと触れ合いたいと思ってしまった。
けれど、俺が皇帝である以上、それはあってはならない。
彼女を守ると決めた以上、その感情は失くさなくてはならない。




騎士は姫に近づく事はできない




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