01 

 今日は穏やかな小春日和。
 こんな日には、家を飛び出し、今すぐ散歩に出かけたくなる人もいれば、のんびり日向ぼっこをしたい人もいるだろう。

 そんな中、焔と樹理は、こんな日―否、こんな日じゃなくても―行きたくない場所にいた。


 左を向けば先が見えないくらい木が生い茂り、右を向けばバサバサと黒い影が飛び立つ。
 この不気味な場所に、樹理の精神は押しつぶされそうだった。



「ここはどこよー!」



 樹理の声が、この真っ暗な森の中に木霊し、すぐに闇に埋もれた。

 先ほどまでは明るい道を歩いていたはずなのに…。
 焔が言う通りの道に従ったのが悪かったのか…。
 とにかくピンチだ。

「まぁまぁ落ち着け。前に進んで行けばどうにかなるさ。あ、右行こうぜ!」
「さっき前に進むって言ったじゃない!」

 道なき道を進もうとする焔にすかさずツッコミを入れる樹理。
 呆れつつも、焔の後を追いかける。

 その時だった。

「うぉ!」

 森の奥から、焔の短い叫び声が聞こえた。

「どうしたのー? …ッ?!」

 木をかき分け、焔のもとに辿り着いた樹理は、思わず声を詰まらせた。

 焔の目の前の大木には、巨大な穴がぽっかりと開いていたのだ。
 まるで、そこだけ空間が抜けているような、真っ黒な穴が。

「なにだこりゃ?」
「あまり近づかない方がいいよ。危ないし。」

 何やら危険空気を感じた樹理が、穴に頭を突っ込む焔に注意する。しかし――

「うわぁ?!」

「焔?!」

 突然、穴から焔を吸い込むかのような強風が吹いた。
 そのせいで、焔の体が半分穴に入り、樹理は慌てて焔の半身を掴む。
 だがしかし、樹理の腕力では焔の体を引き上げる事が出来ず、そのまま穴に吸い込まれた。

「うわぁぁあああ!!」
「きゃあぁぁあああ!!」

 二人の叫び声だけが、穴から森に木霊して、何もなかったかのように消えた。



 先の見えない深い穴。

 落ちた先は不思議の国?

 それとも――


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