ここはノルデンの首都マッセル。
そこに新しく出来たケーキ屋の店内である。
「うわぁ…!」
ガラス越しに並ぶケーキを見て目を輝かせているのは、星翔騎士団本部で働いている、最年少のメイド―クラムである。
ボブヘアーの水色の髪に、まあるく大きな黄色い瞳。まだあどけなさが残る外見だが、彼女も立派なメイドなのだ。
そんな少女、クラムは、そー…っとガラスに手を伸ばした。その時、
「クラム、触っちゃダメだぞ。」
「ひぅッ?!」
突然背後から注意を受け、クラムは肩を飛び上がらせた。
注意したのは、女のくせに、妙に男らしい口調で喋る騎士、エリカだった。
しかし、今のエリカの服装は、普段の騎士服ではなく、黒いスーツだった。
そんなエリカは、ガラスの端に貼られた紙を指差した。
そこには、可愛らしい字で『ガラスに触らないで下さい』と書かれていた。
「うぁぁ…! ご、ごめんなさい…! あまりにも美味しそうだったから、つい……。」
しゅん、として頭を下げるクラムに、エリカは溜め息を吐いた。
「…買ってやるから、そんなに落ち込むな。」
エリカの言葉に、クラムはバッと顔を上げた。
「い、いいんですか?!」
「自分たちのケーキ一つくらい買ったって大丈夫だろう。で、これが欲しいのか?」
「はい! ありがとう御座います! エリカお姉様!」
パァ…と表情を輝かせるクラムを見て、エリカは思わず笑みを零した。
なぜ二人がケーキ屋にいるのか。それは数十分前に遡る。
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