――― ここは4つの国に分けられた巨大な大陸、グローディニア大陸の北に位置する国、ノルデン。
その首都であるマッセルに建てられた騎士団本部の殺風景な屋上。
そこにある柵に寄りかかり、彼女は長い黒髪を靡かせながら、ぼんやり街を眺めていた。
「エリカ!」
ふいに背後から声をかけられ、彼女―エリカ・ブルースターはくるりと振り向いた。
振り向いた先に立っていたのは、柔らかそうな桃色の髪を一つに纏めた、ポニーテールという髪型の少女―エミーリア・マンフレートだった。
彼女は肩を上下させ、大袈裟に呼吸をしている。この屋上までの長い階段を走って来たのだろう。
だがそんな彼女は、エリカの大切な親友であった。
「なんだ、エミか。」
凛とした声で、エリカがそう呟くと、エミは不満そうに頬を膨らませた。
「なんだ、とは何よぅ! もうそろそろ時間だから呼びに来たのに!」
ムキになって言ったエミの言葉に、エリカは『時間?』と、不思議そうに呟き首を傾げた。
エミは深い溜め息を吐いて言う。
「今日からビアスなんでしょう? だから、そのお祝いパーティーを開く事になってるじゃん。そろそろ始まるよ?」
その言葉を聞くと、エリカはまたエミに背中を見せ、街を眺め始めた。
「行かなくていいの?」
「いいんだよ、別に。後で行くから。」
不安そうに問うエミに、エリカはヒラヒラと手を振って余裕な素振りを見せた。
―― 暖かい。風が気持ちいい。
そう思うと、一気に眠気が襲ってくる。
それに対し、エミは深い溜め息を吐くと、呆れたように笑った。
「まったく…。相変わらずなんだから…。」
「ははっ…。」
呆れるエミに、エリカは小さく笑った。
――― 彼女たちは、グローディニアが誇る世界屈指の騎士団、星翔騎士団の一員である。
様々な事件や事柄を調べていて、時には国の為に命をかけて戦う、それがこの騎士団だ。
もとは、シューラと呼ばれるの力を育てるために作られた施設だったが、巨大化して騎士団となったのだ。
シューラとは、星を操るものたちの呼び名であり、戦う意志のある者ならば、誰もが持っていると言われる力だ。
現在シューラは、牡羊、牡牛、双子、蟹、獅子、乙女、天秤、蠍、山羊、射手、水瓶、魚、の12種類ある。
この騎士団は、自身が持つシューラの能力によって、さらに細かくチームを作っている。
まず、牡牛と獅子が所属するのは、攻撃に優れた紅ノ騎士団。
蟹、水瓶、魚の3つが所属するのは、素早さに優れた蒼ノ騎士団。
次に山羊、牡羊が所属するのは、防御に優れた翠ノ騎士団。
さらに、乙女、天秤、射手が所属するのは、回復などの魔術に優れた白ノ騎士団。
そして、双子と蠍が所属するのは、あくまで自己流を大切にする黒ノ騎士団である。
ちなみに、エリカは水瓶、エミは魚のシューラの持ち主なので、蒼ノ騎士団に分けられる。その中でもエリカはビアス、エミはアディと呼ばれる階級にいる。
階級とは、その力にあった任務が出来るように分けられたものであり、この騎士団はそれを五段階級に構成している。
下から、見習い騎士モア、小物騎士ローイ、一般騎士アディ、補助騎士ビアス、そしてその頂点に立つ一人がオルホスと呼ばれる。
そして今日、エリカはついにアディからビアスへ昇格したのだった。
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