――マリーリリーの宿、スノードロップ。



「俺、エリカと相部屋な!」
「それあかんって…。何か間違いないが起こる予感しかせぇへんわ…。せやから、エリカは俺と相部屋な。」
「…馬鹿共が。私が一人部屋でお前らが相部屋に決まってるだろ。」
「「ふざけんな。」」



 この宿に来てから、ずっとこのようなやり取りが続いている。
 そりゃあ、この町は有名な観光名所だ。宿は当然観光客でいっぱいなわけで…。開いている部屋は2つしかなかった。
 それでも無事に部屋を借りれたという事で、いざ部屋の前へ…。
 しかし、ここで重要な問題に差し掛かる。
 ここには三人の人間がいるが、目の前にある部屋はどちらも一人部屋であり、しかも2つしかないのだ。つまり、誰かと誰かが同じ部屋になるわけで……。

『ここは当然私が一人部屋だな。女だし。』
『いやいやいや…。それはあかんって…。だって…』
『それってさ、つまり…』

『『コイツと相部屋って事だろ?』』

 ――そして、このやり取りに繋がるのだ。

 

「兎に角、私は男と二人きりなんて絶対に嫌だからな。じゃ。」

 エリカはそれだけを言い残すと、パタン…と静かにドアが閉めた。

 一瞬廊下が静まり返るが、すぐに二人の慌てた声が響いた。

「ちょッ…それはないやろ?!」
「げっ! アイツ鍵かけやがったし!」

「うるッさァァァいッ!!」

 ごちゃごちゃ叫ぶ二人に、宿屋の主人の一喝が入り、ようやく静かになった。
 どうやら、彼らはレディーファーストという言葉を知らないらしい。
 騎士ならば女を優先するのが当たり前だろうに。
 「はぁ…」と深い溜め息を吐いたエリカは、ベッドに横たわり、明日の朝の事について考えた。

 自分の敵となっている竜を、ついにこの手で仕留める日が来たのだ。

 想像しただけで握った拳が小刻みに震え出した。自分が情けない。

―― 私は私に出来る事をやればいい。ただ、それだけだ…。

 目を閉じれば、すぐに襲ってくる睡魔。
 うとうとと溶けていく意識の中で、エリカはそう呟いた――。


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