……そんなわけで、クラムとエリカの二人は街に新しく出来たケーキ屋に来た。
買えるだけ、と言われていたため、特に迷うことなく、様々な種類のケーキを注文していく。
一通り注文し終わり、会計を済ませようとした時だった。
「ど、泥棒よー!!」
慌てて声を張り上げる女性。その声は街中に響き渡り、エリカたちの耳にも届いた。
「ちょっと待ってろ、クラム。」
「へ? エリカお姉様?!」
財布をクラムに預け、エリカは店を出た。
すると丁度良く彼女の目の前を小柄な男性が走っていった。
「そ、そいつよ! 捕まえて!」
そして、その男性の正体を暴く決定的な声により、エリカは撃ち放たれた弾丸のように相手に向かって一直線。
ガシリっと腕を掴むと、慣れた手付きで男の腕を後ろに回した。
メキメキ、と嫌な音がする。
「あ゙あ゙あ゙あ゙、いだ、いだだだだだだだ!! 悪い!悪かった!」
涙声で講義する男に、"対した事ないな"、と、エリカは鼻で笑ってやった。
男が盗んだのは、宝石が散りばめられた、いかにも高そうな鞄だった。
被害者である女性には泣きながら感謝され、エリカの心は暖かいもので満たされていた。
しばらく優越感に浸っていると、つんつん背中を叩かれ、振り向いた。
「クラムか。代わりに会計してくれたのか?」
そこにいたのは、いつになく真面目な表情のクラムだった。
エリカがそう問えば、クラムは小さく頷いた。
「ありがとう。」
目尻を下げ、頭を撫でると、クラムは気持ち良さそうに目を細めて言った。
「こちらこそ、エリカお姉様……いえ、ボン王子!」
数秒間の沈黙ののち、エリカは口を開いた。
「………は?」
"訳が分からない"と言いたげなエリカの手を握り、クラムは嬉そうに早口で語り出す。
「探しましたよ王子! クラムは、この日をどれだけ待ち望んでいたか…!」
「すまん、状況が呑み込めないのだが…。」
「あぁ!記憶を無くしてしまわれたのですか?! 少しも覚えていませんか? クラムは、かぷかぷ星のお姫様で、アナタは王子なんですよ? 思い出せませんか?」
「だから、何の話かさっぱり…。」
「でも大丈夫です! クラムが王子の記憶の破片を取り戻します! どうかその日まで待っていて下さい!」
目を輝かせてエリカの手を握り、オロオロと目を見開いたと思うと、決意に満ちた目でエリカを見つめる。
その間、わずか30秒。その30秒の間に、さっさっと会話を切り上げたクラムは、ケーキの箱を地面に置き、そのまま走ってどこかへ行ってしまった。
「なんなんだ、いったい……。」
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