――――…。

「ケーキ屋、ですか?」
「そうそう。」

 ある日、エリカのもとに、ちょっとしたお使いの依頼が来た。
 依頼主はリムーザだ。

「今日お客さんが来るんだけどさ、なーんにも用意してなくてさ。」
「だから、私に買いに行けと。」
「うん。ちょうど新しいケーキ屋も出来たしねー。ほら、お出かけ用のスーツも用意したんだー。」

 「じゃーん」と言ってリムーザが取り出したのは、真っ黒なスーツ。これを着てパン屋に行けと。

「まぁ普段着って言ってもこれぐらいしかなかったんだよ。エリカ、ワンピースとか似合わなそうだしー。」
「似合わなくて悪かったですね。」
「あぁもう、怒らないで。ほら、お金あげるからさっさと行ってきて。必要な数は特にないから、買えるだけ買ってきて。」

 リムーザからお金を受け取ると、エリカはスタスタとその場を去った。

 が、しかし、

「!」


 ぐいっと袖を引っ張られ、後ろに仰け反ってしまった。

 くるりと後ろを振り向くと、そこにはメイド服姿の小柄な少女がいた。

「あの…。」
「ん、なんだ?」

 エリカが首を傾げて問いかけるも、少女は困ったようにオロオロして、何かを言いたげだ。
 そこに、ニヤニヤしつつもリムーザが助け舟を出す。

「道も分かんないのにどうやって行くんだー。だってさ。」
「あ、」

 その通りだ。と思ったエリカは、顔を赤らめた。

 それを見て、リムーザはクスクス笑いながら言った。

「その子、道分かるから連れて行ってあげて。名前はクラムね。」

 少女―クラムは「はわわ…」と戸惑いながらぺこりと礼をした。

「あー、ごほん…。」

 エリカは赤い顔を誤魔化すように咳をすると、しゃがんで目線を合わせ言った。

「私はエリカ。よろしくな、クラム。」

「は、はい!」

 こうして二人のお使いが始まった。

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