星翔騎士団は、毎朝早くにホールに集まり、騎士全員のコンディションを確認する。
 だが、その今日の朝の集いに行く事が出来なかった。その詫びとして、自分が元気だという事を伝えなくてはならない。

 重い体と、途切れ途切れの思考を引きずりながら、エリカは歩き出した。
 向かうは、蒼ノ騎士団のオルホスの部屋。
 一歩一歩踏み出すごとに、頭の痛みが増し、激しい吐き気に教われる。
 それでも、虫の息で歩き続け、曲がり角に差し掛かったその時、

「あれ、エリカさん?」

 ふと、しばらく聞いていなかった声が頭上から聞こえた。

 顔を上げるとそこには、色素の薄い灰色の髪を一本に束ねた、緑目の男がいた。
 彼は、横長の眼鏡越しにエリカを凝視する。

「あの、大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが……。」

 男は、その長身に似合わずオロオロしながらエリカ触れる。
 エリカはその手を振り払い、無表情で言い放つ。

「触れるな。私なら大丈夫だ。」

 男―フラン・エイヴォリーは、払われた手を抑えながら、小さい声で「すみません…」と謝った。

「それより、お前はエミのところに行ってやってくれ。アイツの方が大変なんだ。」
「えッ?! エミがどうかしたんですか?!」

 "エミ"という名前に、フランは過剰に反応した。
 当たり前だ。彼はエミの大事なパートナーなんだから。

 フランは「あぁぁ…!」と声をあげながら、すぐにでもエミのところに飛んで行きそうな勢いだった。
  しかし、すぐにハッと我に返ったフランは、またしおらしく俯いた。

「あ、でも…。エミは僕の事嫌いみたいだし…。行ったら嫌がられるかも…。」

―― まったく、このヘタレは…。

 エリカは大きな溜め息を吐くと、フランの背中を強く押した。
 フランは驚いて目を見開き、首だけ後ろを向くように曲げた。

「アホ。あれはツンデレだ。嫌よ嫌よも好きのうち。あぁ…まぁ兎に角、さっさと行け。」

 今度はさっきよりも強く、背中を押す。

「あ、あわわ…! ちょっと待って下さい…!」

 背中から手が離れたところで、フランは慌てて振り向いた。

「ん?」

 エリカが「なんだ?」と聞く前に、フランは彼女の額に手を当てた。

「なッ…?!」
「あ、すみません。少しじっとしてて下さい。」

 そう言った瞬間、フランの掌から白い光が溢れ、エリカの額に吸い込まれるように消えていった。

「これでよしっ…と。少し楽になりましたか?」
「楽に…?」

 そう言われれば、さっきまでガンガン頭を襲っていた痛みが、スッと軽くなったようだった。

 驚くエリカに、フランは今日初めての笑顔を見せた。

「これでも僕は白ノ騎士団です。苦しんでいる人を放っておけませんから。」

 ふんわりとした、優しい笑み。
 それだけで、エリカの痛みはさらに軽くなったような気がした。

「…あ、ありがとう。」

 照れくさそうに礼を述べるエリカに、フランは満足そうな笑みを浮かべた。

「はい。…では、お大事に。」

 そう言い残すと、フランはすぐさまエミのもとへ走っていった。

 彼は、天秤のシューラを持つ白ノ騎士団のビアス。その実力を目の当たりにした瞬間だった。


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