声の主は、いつの間にか、オルホスたちの中心に立ち、異彩を放っている女性、リリア・オズ・スカーレットだった。
 腰に付く程度の真っ白な髪。毛先に近づくにつれ、桃色に変わっていくグラデーションは、なんとも美しい。
 さらに、大きな桃色の瞳からは、彼女が優しい女性だという事を表していた。
 ウエディングドレスのような、真っ白いドレスはそんな彼女の雰囲気にぴったりだった。

 そんな彼女、何を隠そうノルデンの女王であり、星翔騎士団をまとめあげる役目をしている人物なのだ。

 普段は国での演説の時にしか顔を出さない彼女が、今、自分たちの目の前にいる。
 静かにしなくてはいけない事は分かっているが、やはりざわついてしまう。

 その様子をしばらく眺めたリリアの透き通る声が、直接脳に響いた。

『皆様、静粛に。ね?』

 しん…―とホール全体が静まり返る。
 彼女は笑顔だった。笑顔だったが、その笑顔からは、確かに黒いものが見え隠れしていた。
 静かになったことを確認したリリアは、「ふふっ」と口に手を当て上品に笑うと、今度は口で喋る。

「皆様、お忙しい中集まってくれた事、本当に感謝していますわ。まぁ、来ていない者もいると思いますが……。」

 そう言って、リリアはチラリとカルを見た。が、当の本人はまったく気づいていないのか、呑気に欠伸をしている。

「それでは、今回の任務について、私が直々に話をしましょう。」

 ゴクリと固唾を飲むエリカ。
 しかしその両隣は、欠伸をしたり飴を舐めたりと、まったく緊張感がない。それ以前に失礼すぎる。
 エリカの緊張は、この二人が今に怒鳴られるんじゃないか、という緊張かもしれない。

「最近、竜の目撃情報が増えている事はご存じでしょうか?」

―― 竜……。

 エリカの瞳が、ほんの少し不安気に揺らいだ。
 昔を思い出した。昔、竜に焼き尽くされた故郷を、家族を、友人を……。

「幸い、まだ被害は出ておりませんわ。…そこで、先に被害が出る前に、私たちで討伐してしまいましょう。数も多いそうですので、今回の任務は三人、もしくは四人一組で行動してもらいます。チームは既に決まっていますので、自分のオルホスに聞いて下さい。危険な任務のため、参加出来る階級はビアスとオルホスのみとします。出発は明日の朝です。準備はちゃんとしておくように。それでは、解散!」

 リリアの一声で、騎士たちはそれぞれに散らばっていく。

 そんな中、微動だにしないエリカは、強く拳を握って誓う。

―― 竜……。あんなのがまた暴れたら、相当の被害を受けるだろう……。

 誓う。過去の自分に。今の自分に。

―― 二度と、あの村のようにはさせない…!

 固く握り過ぎた拳から、少しばかり血が溢れた。



end

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