「やぁ、エリカ。」

 初任務となり、緊張に顔を強ばらせているエリカの腰に、一人の男性が腕を回した。

「リムーザ様、そういうのやめて下さい。」

 そうきっぱりと言うと、エリカは、男―リムーザ・ラロシュの腕を振り払った。

「はぁ…。相変わらず冷たいねぇ。そんなんだと、いつまで経っても成長しないよ? 胸もね。」
「すみません、少し黙っていて下さい。」

 さらりとセクハラ発言をするリムーザを睨みつける。
 本当に黙ってほしい。黙っていればイケメンなのだ。
 長く真っ直ぐ伸びた金色の髪に、綺麗な水色の瞳。
 チャラいわけでもなく、騎士服もきっちりと着こなしている。
 なのに喋るとこれだ。本当に勿体無い。

 だが、そんな彼は、蟹のシューラの持ち主であり、エリカが勤める蒼ノ騎士団のオルホスだ。
 実はかなりの強者である。力任せにいけば、自分くらい簡単に押し倒せるはずなのに、それをしない所は評価出来る気がする。

「それよりリムーザ様。今日の助っ人とは?」
「あ、喋っていいの?」
「もう喋ってるじゃないですか。」

 リムーザは「そうだねー。」と軽く笑う。

「パートナーを持たない君の為に、オレが直々に頼んだんだから、感謝してよねー。」

 そう、エリカには共に戦うパートナーがいない。
 この騎士団では、誰かとパートナーを組むのが当然だが、強制しているわけではないので、エリカはパートナーを持っていないのだ。
 ちなみにオルホスに昇格した者は、パートナーを持つ事が出来ない。これは決まりである。

「ありがとう御座います。早く呼んで下さい。」
「君ってホントせっかちだよね……。ま、いいや。ルルー!」

 リムーザが手招きをして呼ぶと、一人の女性が欠伸をしながらやってきた。

「おう、呼んだか。」

 やってきた女性は、ボサボサのオレンジ色の髪を、後ろで太い三つ編みにしている。
 そしてその真っ黒な瞳からは。情熱のようなものを感じられた。
 騎士服はずっと昔から着ているかのように、少し色あせていた。
 しかもその女性に、エリカは見覚えがあった。

「る、ルルー様が、助っ人ですか…?」
「そうだよ。」
「よろしくな、エリカ!」

 ニカッと歯を見せて笑う女性―ルルー・パラエル。
 彼女は牡牛のシューラを持った、紅ノ騎士団のオルホスである。
 驚く事は、女性がオルホスだという事実。現在のオルホスで、女性は彼女だけ。
 オルホスを目指しているエリカにとって、彼女は憧れの人物だった。

 普段はポーカーフェイスなエリカだが、今回ばかりは、にやけを抑えるのに必死だった。

―― ありがとう、リムーザ様。初めて心から感謝した気がします。私、リムーザ様の部下で良かった…。

「リムーザ様…、あり」

「いやぁ、ルルーは本当に大きいね…。何食ったらあんなになるか、気にならない…?」

 エリカはその感謝の気持ちを、胸の奥に閉まい、二度と出さないことにした。

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