――…蒼ノ騎士団、オルホスの部屋

 机の上でうつらうつらと書類を纏めるリムーザの背後に、不気味な影が潜んでいた。

「りむーざぁ…。」
「ぎゃぁぁあああ!」

 その影が、ぴたっ、と背中にくっつけば、リムーザは驚き飛び上がった。
 パッと体を離れた瞬間、リムーザはすかさず振り向く。

「げッ! オカマ!」

 振り向いた瞬間、鳥肌を立たせながら顔を青くした。

 ロリータと呼ばれる服装をした彼女(?)は、柔らかそうな栗色の髪を弄りながら、不機嫌そうに首を傾げた。

「…誰がオカマだって?」
「お前だお前! 近づくな! 触るなっ!」

 誰だかはだいたい予想はついていたが、くっかれていたと思うと、リムーザにとっては気分が悪いものなのだ。

 そんなにリムーザに苦手意識されている彼女―キノ・ブレッシンは、白ノ騎士のオルホスであり、歴とした男性である。
 リムーザから見れば、男か女か曖昧であるキノは何よりも苦手なのものだ。

 そんなキノは、「むぅ…」と不満げに頬を膨らませ、リムーザの机に頬杖をついた。
 キノのオレンジ色の瞳が、猫のようにリムーザを捉える。

「僕…こんなに可愛いのにぃ…。」
「はぁ…。自分で言わないでよ。それに、俺が好きなのは美人の女の子とかじゃなくて、女の子。痩せてようが太ってようが、大切なのは性別が女だってことだよ。顎が出てようが糸目だろうが、それは個性だし。ってか"不細工"って女の子の中にいるの? "不細工"って男のためにある言葉でしょ? だから女の子は、」
「あー、もう! 分かった分かった!」

 べらべらと語られるリムーザの長文を、やっとのことでキノが切る。リムーザはまだ語り足りないようだ。
 しかし、キノはそんなリムーザを無視して話しだす。

「…てかさァ、エリカがあの新入りとパートナー組むって知ってる?」
「は? マジで?」
「マジマジ真面目。僕はリムーザに嘘吐かないからねっ!」

 ギュッと抱きつけばすぐさま引き剥がされる。
 リムーザのストレスとキノの不満は溜まるばかりである。

 だんだんと不機嫌さを増していくキノに、リムーザは重く深い溜め息を吐いた。

「パートナーってのは大変なのに…。エリカは大丈夫かなぁ…。」
「心配ないよ! 僕らは今もラブラブだしね?」
「誰がラブラブだ、誰が…。うぅぅ…エリカぁ…エリカエリカエリカ…。」

 譫言のように呟くリムーザ。
 キノはついに机の上に座ると、腕組みをして悪態を吐く。

「ふんっ…んだよ気持ち悪ぃ…。この変態が…。」

 互いにブツブツと文句を言い合いながら、キノはその猫目を細め、不満げに口を尖らせる。



「酷ぇや。元パートナーのくせに…。」


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