「今のは…。」

 エリカが雛奈を見た時、すでに太刀は鞘に納められていた。

「あれがシューラさ。うちのはまだダサいけどな。」
「成長すれば、ちゃんと自分の力に合ったものが出せるぞ。私は自然の魔法を使うから、この光が自然系のものになればいいんだ。」
「私なら水…か。」
「そういう事。」

 そんな雛奈の周りを、緑の光で出来た小さな山羊が飛び回っている。
 雛奈がスッと手を出すと、山羊は雛奈の手に乗る。ちょうど手乗りサイズというところだ。

「あんたら騎士は、今まで魔法と武器こそがシューラだと言われてたと思うけど…、本当は違う。これがシューラだ。」
「私にも、使えるのか?」
「それは分からないぞ。ただ、私とパートナーを組むんなら、直々に指導してやらんこともない。どうだ?」

 そう得意げに言ってくる雛奈に、エリカは真剣な面もちで言った。

「…一つ聞く。なぜお前は、そこまでして私とパートナーになりたいんだ?」

 エリカの問いに、雛奈は一瞬きょとん、とするも、直ぐに真顔に戻る。

「当たり前だろ。ローランドが言ったからだ。」
「…それだけ、か?」
「それ以下でも以上でもないさ。」

 雛奈が人差し指を回すと、その指に吸い込まれるように、光の山羊は消えていった。

「うち、あんなに優しくされたの初めてなんだ。…だからさ、ローランドが望むことは出来るだけ聞いてやりたいだけ。本当それだけ。」

 ぽつぽつと語る雛奈からは、先ほどの自信は感じられない。
 なぜこちらに移ったのか、なぜ獣のようなものが生えているのか、その理由は分からないが、雛奈にもちょっとした事情があるようだ。

「別に、嫌ならいい。」
「…嫌じゃない。」

 ふいっ、とそっぽを向いたエリカが、急に呟いた。
 それに、雛奈は「ん?」と聞き返す。エリカは少し不機嫌そうに答える。

「…嫌じゃないと言ったんだ。」
「は? 本当に? 本当にいいのか?」
「…ただ、私と組んだら後悔する事になるぞ。どうなっても知らん。全てはお前の責任だ。それでいいなら、」
「いい! 全然大丈夫!」

 ついに、雛奈はエリカの手を握った。

 この瞬間から、エリカと雛奈は本当にパートナー同士になった。



 …その時、木の上からそれを見守る一つの影があった。

「ふーん…。そゆことねぇ…。」

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