エリカが一匹一匹、竜の喉元を触り、息をしているか確かめる。
 一頭、二頭、三頭、四頭…五頭。
 ここで、エリカの脳裏を一つね疑問が過ぎった。

―― 竜は全部で六頭だったはず…。ここに倒れてるのは五頭…。

 そこで、真っ直ぐ街がある方へ向かう、竜の足跡のようなものを発見してしまった。足跡が残るのだ。かなりの大きさがあるのだろうか。
 エリカの顔が青ざめる。

「…お前らはここにいてくれ。」
「は?」
「散歩だ。ついて来るなよ!」
「ちょ、エリカ?!」

 呼び止める声も無視して、エリカは走り出す。

―― まだ森にいるか…もう街か…。

 チラチラと過ぎる嫌な予感を振り払い、エリカは走る。
 昔のようにはさせない、その為に。

 しばらく足跡を追い、ついに花畑の中に着いた。
 竜の足は、ここで消えている。どうやら街は逸れたらしい。
 だが、エリカはそこで驚きの光景を目にした。 見覚えのある後ろ姿――茶髪にワンピース、その子――

「シャロン?!」
「あ、おねぇさん!」

 エリカがシャロンに駆け寄れば、シャロンはニッコリと笑う。
 呑気なシャロンを見て、エリカの焦りは何倍にも膨れ上がる。

「あのね、おかあさんが街のお花はダメって言うから、ここにお花摘みに来たんだよ。」
「分かったから、早く逃げろ! この森は危険だ!」
「おねぇさん…? どーしたの?」

 怯えた様子で、シャロンは首を傾げた。
 その時、小さなシャロンに、大きな影が重なった。

「――ッ!」
「きゃあッ?!」

 反射的に、思わずシャロンを抱きしめてしまった。

―― 怖い…怖い怖い怖い怖い…! もう人が死ぬのは…ッ!

 ガタガタと震えるエリカの振動がシャロンにも伝わったのか、ぎゅっと抱きついてきた。
 爪が振り上げた竜に、二人は目を瞑った。

 赤い、生暖かい液体が飛び散った。
 ただし、エリカのでも、シャロンのでもない。
 それを証明したのは、ユラリと倒れる竜だった。



「…一人で行動すんなっつの。」
「カル…。」

 竜の腹に突き刺さった大剣を抜き、溜め息を吐いたカルに、エリカは安堵した。

「悪かった…。」

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